騎士団長は捕虜になった俺に何故か甘すぎる

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自分の国の騎士団長にして、騎士の育成にリード様を招きたいと考えているようで」 ロマーヌがフラットに目配せをした。 秘密にしていることがある。そんな様子だ。 不審に思いながらも、三人でテーブルを囲んだ。 おめでたい日だというのに、ロマーヌの顔がどこか浮かない。 「お嬢様が嫁入りは不安か?」 俺が尋ねると彼はもっと沈んだ顔をした。 「いえ、とても」 彼は言葉を詰まらせた。 「…嬉しいのですが、寂しさが勝つんでしょうね」 俺は成る程と感心した。執事とお嬢様といっても幼馴染みだというから、長年一緒にいる。他の男のもとに嫁ぐとなっては複雑だろうな。 それがエルマンド氏とあっては。 男から見ても理想的な方だ。 「笑って見送ってやれよ」 「ええ」 彼は表情を曇らせながらも頷いた。 彼は式の直前になるとホール家の席に戻って行った。 その後の事は皆、知っているだろう。 詳しくは「執事と姫の腐れ縁。さざめき」 を参照してもらいたい。 俺達は自分の城に戻りフラットとカードゲームをしていた。 「エルマンド氏の結婚が取り消しになって一部の女性は喜んでるだろうね。皮肉なもんだね。 でも、エルマンド氏は今結婚をしなくても相手を選べるんだから、本気になればいくらでも結婚出来るだろう」 「確かにな」 トランプの小気味いい音が静かな部屋に満ちる。 「それより。一つ疑問がある。 何故、国王は側近のルーマンエリアなんだ。 貴様の国のウォーク・ハリス王で良かったじゃないか。 それに、俺達騎士や姫は貴様の国に引き取られただろう」 テーブルの上でトランプを混ぜている手が止まった。 「どうした。ロマーヌ君も変だったが」 訝しげに見ると、彼は顔を少し背けた。 「ん、いや。なんでもない」 明らかに不可解な言動が増えていた。 そのすぐ後、俺はその行動の意味を知ることとなった。 シャワールームからの帰りに離れの壁に掲示板を見た。 街で発行されているチラシや新聞が張られている。 ―謀反により、王政改革― 記事を読み進めるとこんなものだった。 ―(省略)チャーチ家の悪事を見ていた側近の告発によって謀反があった。 チャーチ家は全員粛清され、騎士達は処分された。 団結して国家転覆を目論むことが出来ない程まで解体された。一部の騎士は自害に追い込まれた。 新たに擁立されるはずだった他国の第三王子だが、まだ未熟者だった。 王子が経験を積み、器が出来るまでは元側近のルーマン・エリアが摂政となる。国王という名前もルーマン・エリアに与えられるだろう。― 「表向きは謀反だって」 驚きを隠せずにいた。 俺達はてっきりフラットの国に侵略されたものだと思っていた。 感情が高ぶったまま部屋に戻り扉を乱暴に思い切り開けた。 「貴様」 彼の胸ぐらを掴み上げると、相変わらず腹の立つ冷ややかな目が見据えている。 「何を怒っている。まぁ落ち着きなよ」 「落ち着いてられるか。貴様は分かってたのか。 それなのに俺に何も伝えなかった。 俺の国と同盟を結んでいただろう。 同盟国の俺の国を裏切って、あんな酷いことを」 彼は俺の手を振りほどき、その手で服を整えた。 「聞きたいことがある。 騎士は一人も自害なんてしていないし、姫も生きているんだろう。 俺達の処遇は前もって決められていたんだな」 「あぁ。騎士は処刑、チャーチ家は滅亡させるという契約だった。 実行は俺達の国が行い報酬をもらう。 でも僕はやっぱり情が勝ってしまったよ」 彼は慈しむような笑みでいる。 それが気にくわなくて声を荒らげる。 「奴と共謀して俺達の国を乗っ取ったってのか。 もともと全て想定の上で」 「そう」 彼は被せるようにくいぎみに答えた。 「名推理。だけど、ちょっと違うね。 不正解85点。共謀と見せかけての奴は手の内だ」 彼はソファから立ち上がると、チェス盤上の駒を取り上げた。 「ルーマン・エリアは王になれる素質も器もない。 元々チャーチ家のただの側近なんだから。 僕はそそのかしただけ。シナリオは考えてある。 そして、切り捨てる」 キングの駒が倒れた。 もう一つ気になることがある。 あの記事に載ってあったことだ。 ―(省略)告発には大変な勇気と準備が要っただろう。ルーマンはある人物に助言を得たと言っている。 「酒場で出会った青年がそれはもう頭が切れる奴で。そこで成功する方法を思い付いた。 彼とはそれ以来会っていないし、見てもいないね。 今度会ったら感謝したいよ」― この人物とは誰なのかがまだ分からない。 「酒場の奴が詳しく策略を考えていたらしい。 そして、何度か会って話をしていた。 だからこそ成功したと言える。 素人がなんて余計なことを」 俺は机に拳を叩きつけた。 テーブルのワインの水面が揺れ食器は音をたてる。 最後の答えが見えない。 暫くの沈黙を破ったのは彼だった。 「それは、僕だよ」 耳を疑った。ゆっくりと彼の顔を見返した。 「酒の場で変装して別人として話を持ちかけた。 内容としては、隣国と契約を交わして国王になる最短ルートを伝えた。 ちゃんとシナリオ通りに進んでいる」 満足そうに目を細めた。 「一国を滅ぼしたのにそんなに心安らかにいられるのか、悪魔」 彼は葡萄を一粒摘まみ目の前に上げた。 「心外だな。もともと危うくなっていた君の国を救うにはこれしかなかったんだよ」 「結果的には救われてないじゃないか」 不適な笑みで俺に近づくと、手袋の指先で俺の額を押した。 「一番綺麗な形でハリス家を国王にする。その為には捨て駒がいる」 見上げたその顔は驚くほど表情がなかった。 「それがルーマンなのか。 つまりは、意図的にルーマンが失脚するきっかけをつくれば、国を建て直ししている姿を見せられ信頼が高まる」 「そう。そして領土を広げ、作物を作り、王の汚職と腐った制度を潰し、自由な国を作る。 結果的に貧しい国が救われる。それが最適解だ」 「つくづく恐ろしい奴だ」 ルーマンが少し気の毒に思えた。 初めからただの捨て駒だったとは。 束の間の夢を楽しめ。 「ソフィア姫は死んだことになっている。 そういう契約で。因みにお前も殉死ということに」 正直、呆れたがよくもここまでシナリオを思い付いたものだと思った。 「小説家になれるな。 ロマーヌ君は、俺を滅ぼされた国の騎士だと知っていた。 新聞で死んだと思われていた俺の生存と滅ぼした国の家臣についたことを知った。 そういう訳で気まずそうだったのか」 ゆっくりと頷いた。 「現段階では、俺が謀って実行したことは誰も知らない。協力し攻め落としたのは俺達の兵だけど。 今からルーマン失脚、ハリス家が代わりに統治、そこで結果を出す」 納得したくはないが腑に落ちた。 「王様と妃様は自害。姫様は保護。 チャーチ家を滅ぼす必要はあったのか」 「賢い君には分かると思うよ。同じ国に王政は二つ作れない」 冷ややかな声色だった。 「弱肉強食で負けたという訳か」 「君たち内側の人間は知らないだろうが、王と妃は裏で様々な組織と繋がっていた。 このままいけば、破産だけでなく悪い組織から流れてきた物で治安が悪くなり、弊害が出て、国として機能しなくなる。 詳しいことはもう終わったことだから君には伝えないでおくよ」
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