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00 プロローグ
透き通るような空間が地平線の先まで広がり、果てしてない大地には見たこともない白い花が咲き乱れていた。
「‥‥ここはどこ?」
藤宮真子は、初めて目にする場所に困惑した。
美しい花々に見とれる女性も多いだろうが、真子は花を踏み荒らしながら歩き続けた。
花に対する無慈悲な仕打ちに、心が痛むと思っても、自分の意思とは無関係に足が動いてしまった。
仕方なく歩くしかないと思いつつ、
――ここは一体何処なんだろう?
花を踏みしだきながら、不安げに呟いた。気づけばここにいて、ずっと歩いていた。
何かを思い出そうとしても、真っ白な空のように頭の中は空っぽだった。
まっすぐに進むうちに、ふと自分の胸に目が留まった。
そこには、手のひらほどの穴が開いていた。
しかし、身体には痛みも血もなかった。
どうして穴が開いているのかと首を傾げながら、穴を隠すように手を当ててみたが、穴は埋まらずそのままだった。
今の自分がどういう状況にあるのかわからないまま、どこからともなくサラサラと川のせせらぎが聞こえてきた。近くに川があるのだろうかと周りを見渡してみたが、川の姿は見えなかった。すると、
『ニャー‥‥』
川のせせらぎに混じって、猫の鳴き声が聞こえた。歩く先に、その鳴き声の主であろう姿があった。
「猫‥‥?」
遠目でもわかるほど、銀色の毛並みの大きな猫が陽炎のように揺らめいていた。
それはまるで蜃気楼のようで、その場所に光が屈折して本来そこにはないもの――猫の姿を映し出しているようだった。
そして猫には、その大きさもさることながら、他にも奇妙な部分があった。
「尻尾が‥‥二本ある?」
口にした途端、猫が驚異的な速さで真子に突進してきた。
避ける暇もなく猫は光の粒子となり、真子の胸に開いた穴へ飛び込んだ。すると、穴から光が激しく散らばり、白い空間はさらなる白をまとう光で覆われた。
眩しさの中で英数字や記号、多種多様な言語などの膨大な文が弾け飛び、真子の身体の中に流れ込んでいった。
その光源の先に『人の姿』を見た気がした―――――
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