第1話 再会

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第1話 再会

「疲れた…」 残業を終え、最寄り駅に着いた途端、ポツリと思わず漏れた声。 (こんなはずじゃなかったのになぁ…どこで間違えたんだろう…) 日々の仕事を淡々とこなす日々。 かといって、職場の仕事内容も人間関係も特に問題はない。 だけど、何かが物足りない。 そんな毎日を繰り返す日々。 周りは結婚ラッシュにベビーラッシュ。 職場でも後輩達は続々と結婚と妊娠で祝福されている。 (私だって、恋をして、結婚をして、大好きな人との間に子どもをつくりたいのに、なんで、なんで肝心な大好きな人ができんのじゃー!!!) 思わず、心の中で叫んでしまう。 そんな幸せそうな周りを見て、焦りと、そして羨ましいと思ってしまう自分が心底嫌だ。 (私って結婚向いてないのかな…) そんな考えが頭をよぎる。 初めてできた彼氏は20歳を超えてからだった。 私のことが好きなんだろうということは、態度で薄々感じていた。そのため、連絡先を交換して割とすぐに告白された。私も、彼のことが好きなのだろうと思い、付き合うことになったのだが…。 私は、いわゆる『オタク』だった。それも、重度な『アニメオタク』。 推しのために生きていた私にとって、彼よりも推しの方が優先度が高かったし、彼よりも友人とのお出かけの方が優先度が高かった。 だからなのか、元アイドルオタクでもあった彼は、オタクに理解をしていると言っていたにも関わらず、あまりにも私が自由すぎたせいか、1ヶ月で振られてしまった。 一緒にでかけたのは一度だけで、振られたのはその後すぐだった。 そのあと、必死に何がダメだったのか考え、婚活をしようとしたがうまくいかず、1人で生きていく決心を決めた。 しかし、コロナ禍となり、1人で過ごすことの寂しさがどんどん募り、再び結婚したい、という気持ちがみなぎったため、現在結婚相談所に登録しているのだが…。 その気持ちが続いたのも1ヶ月。 1ヶ月をすぎるとまめに連絡するのが私はそもそもめんどくさいのだと実感した。 で、今に至る。 「どこかに私のワガママに付き合ってくれる王子様おちてないかなぁ」 なんてやけくそになってつぶやき、いつの間にか着いていたアパートの自動ドアをくぐり、玄関ホールに向かうと、 「小鳥遊美琴さん?」 と誰かに声をかけられた。 私が不審に思い振り向くと、そこには超絶美形の青年が立っていた。 (え?誰?この超絶美形の青年…) 私の率直な感想はまさしくそれだった。こんな美形なら忘れるはずがない。なぜなら私は『面食い』だからだ。 こんな美形な子がなぜ私の名前を…? 不思議に思いながら、脳をフル稼働させて過去に出会った美形男子を考えようとしたが…ダメだ。残業でもう頭が回らなかった。 私は諦めて身元不明の彼に尋ねる。 「どなたでしょうか?」 そうすると彼は少し寂しそうな顔で、 「10年離れてたから忘れちゃった…?琴姉ちゃん?」 と私を呼んだ。 その呼び方をするのは、かつて近所に住んでいて、かわいがっていた男の子。彼、1人だけだ。 「え、まって、その呼び方って、まさか…ゆうちゃん…?」 私がそう言葉にすると、彼は満面の笑みを浮かべてうなずく。 「そうだよ!僕、三枝悠希。久しぶりだね、琴姉ちゃ…ってわわわ!!!」 私は彼の言葉を聞く前に、彼に飛びついていた。 この10年、ずっとどこかで探していた。急に会えなくなって、彼の成長を見守ることができなくなって、でも連絡先なんてわかんなくて。 そんな彼が、今、目の前にいる。 これは…夢? 「琴姉ちゃん…!まって、ちょっ、急に抱きつかれたら色々困る、まって、って、うぐっ!!!」 ゆうちゃんはそう言って私と距離を取ろうとするので、私は背中に回した手に力をこめる。頭上でゆうちゃんの悲鳴が聞こえるが気にしている場合ではない。 「ゆうちゃん…、本当にゆうちゃんなの?幻じゃない?ほんとにほんとにゆうちゃん?」 私は信じられなくて、ゆうちゃんを見つめながら思わずそんな言葉を放つ。 彼は、距離をとることを諦めたのか、優しそうな声音で、でもどこか照れたように頬を染めながら、 「琴姉ちゃん、心配性だなぁ…ほんとに僕だから安心してよ」 えへへ と笑った。 そうだ。 この笑顔だ。 私はずっと、この10年、この笑顔を見たかったんだ。 「良かった…元気で良かった…」 溢れ出る感情を抑えられなくなった私は、両手で目を覆いながら泣いた。 ゆうちゃんはそんな私にオロオロとしながらも、優しく抱きしめてくれた。 ゆうちゃん、元気でいてくれてありがとう。あのとき、ゆうちゃんは皆を笑顔にしてくれていたのに、その笑顔に助けてもらっていたのに、私は何も気づいてあげられなかった。ごめんね。会いにきてくれてありがとう。 私はただずっと、そう思いながら泣き続け、ゆうちゃんは優しく背中をポンポンとさすりながら、抱きしめ続けてくれた。
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