第1章 メッセージボトルと遺書

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紫輝は自転車で警察署へと向かった。遺書のことなら警察に相談するのが一番だ。自然と自転車を漕ぐスピードが上がる。警察署の前に自転車を止めて、紫輝は中へ入った。 だが、警察官の対応は紫輝が考えていたようなものではなかった。 「イタズラもしくは詐欺の可能性が高いですね。くれぐれも金品を送ったり個人情報を教えないようにしてください」 メッセージボトルの遺書を確認した警察官は、頷きながら説明した。たしかに普通に考えたらそうかもしれない。金品や物資を騙し取ろうという狙いにも見えなくはない。 「本物の可能性は?」 「極めて薄いですね。ここ最近、自殺や行方不明という報告は上がっていないんです。……いや、先週自殺した女子高校生がいたのですが、彼女には弟はいませんでした。だから、自殺の遺書とは考えられません」 「そうですか……」 警察官の説明に紫輝は小さく頷いた。警察官が言うならそうなのだろうが、どこか引っ掛かりが取れなかった。遺書から伝わる筆跡と滲んだ紙が偽物には見えなかった。それに自殺の報告がないということは、まだ遺書を書いた本人は生きているということ。今もどこかで苦しい思いをしているのかもしれない。 「ではくれぐれも気をつけて下さい。長瀬さんの情報は何も取られていませんので、ご安心ください。また何かありましたら、報告をお願いします。ありがとうございました」 紫輝はメッセージボトルと遺書を受け取り、警察署を出た。イタズラと判断されたためか、遺書を預かられることもなかった。紫輝はメッセージボトルを鞄に入れると元来た道を引き返した。 嘘の可能性が高いことは分かった。だが、もし本当ならと思うと、気が気ではなかった。 家に帰っても気持ちはおさまらなかった。警察官の言う通り、イタズラだと割り切るのが正しい選択。その方がリスクもないし、気持ちも楽だと思う。だがイタズラと割り切りたくても、もしかしたらという気持ちが抑えられなかった。 一人でいると、焦りが強まるばかりで何も手がつかなかった。紫輝は自然と会社の同僚の南大也(みなみだいや)にメッセージを送っていた。 『土曜日にごめん。 相談に乗ってほしいんだけど、今日電話とかできたりする?』 普段紫輝は人に相談せず、自分で解決することがほとんどだった。だが、今回の問題は自分で抱えきれなかった。
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