第1章 メッセージボトルと遺書

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「女性って、そんなこと分からねーだろ。池村葉月って名前も本名か怪しいし、年齢だって分からねー。相手の分かっている情報なんて、何一つないんだよ。親切心も大切だが、疑うことも大事だぞ。親切心でやったら、騙されましたじゃ嫌だろ?」 「たしかに。それは嫌だ」 「あと私設私書箱って何だ? 怪しい組織の住所じゃないよな?」 「それは僕も何かと思ってさっき調べたんだ。私設私書箱は郵便物や荷物の受け取りを代行するサービスのことらしい。簡単に言うと、自宅以外にもう一つ自分のポストがあって、そこに荷物が届く感じ。届いた荷物は預かってもらえるし、自宅へ転送してもらうこともできる。遺書の住所を調べたけど、間違いないと思う」 紫輝は電話前にネットで調べた内容を説明した。紫輝も私設私書箱というサービスは初めて知った。 「なるほどな。まあどっちにしてもやめといたら?」 心中を吐露したが、大也の意見は変わらなかった。紫輝は彼の意見を肯定した。 「……まあそうだな。やめておくか……」 だが、心の中では結論を素直に受け入れることができず、もやは晴れなかった。それがなぜかは分からなかったが、どうすることもできなかった。紫輝が礼を言って話を終わらせようとした時、紫輝が分からなかった気持ちを探し当てるように大也が話した。 「長瀬、返事したいんだろ?」 「えっ、いやそういうわけじゃ……」 大也の意外な台詞に紫輝は驚いた。大也は気にすることなく続けた。 「俺が返事しろって言ってたら、絶対してるだろ。じゃなきゃ、警察も俺もやめとくように言ってるのに渋らないからな。長瀬は人一倍お人好しだからな」 「そんなお人好しじゃないけど……」 「いやお人好しだ。こんなの詐欺を疑うのが普通だぞ。相手のことが気になって、気が気じゃないんだろ?」 「……うん。そうかもしれない」 大也の台詞に、自然と喜びを感じる自分がいた。その正体に紫輝は気づいた。結局、返事するべきだと言われたかっただけだった。だが、一人じゃ不安だから、賛同してくれる人がほしかった。小さく返事すると、大也は呆れたように大きく息を吐いた。 「全く頑固な同期だな。……まあ長瀬の拾ったものなんだから、返事するのは勝手だが、個人情報は最低限にしろよ。名前は仕方ないにしても、住所はこっちも私設私書箱にしとけ。どんなやつか分からねーんだから」
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