第1章 メッセージボトルと遺書

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「ありがとう。でもさっきは無視しろって」 「いや無視しろって言っても聞かないだろ」 「たしかに……。ありがとうな、南」 「急に嬉しそうになって。俺に相談する意味なかったんじゃないか?」 大也は笑いながら言った。だが、紫輝は相談してよかったと感じていた。一人で考えていると、自分がどうしたいのか結論を出すことができなかった。大也のおかげで、気持ちが整理できた。紫輝は心の奥底で、返事したいと感じていた。 「いや南のおかげで気持ちが整理できた。一人だとどうしていいか分からなかったから」 「なるほどな。まあそれならよかったわ。でも気をつけろよ。何かあったらまた聞くからな」 「ありがとう。助かったよ。結局意見を押し通す形になってごめんな」 「最終的に決めるのは長瀬だろ。ということで、お礼に明後日俺の仕事を手伝ってくれ」 「……分かったよ」 「おい冗談だぞ。何かいいやつすぎて怖いわ」 「いやいやそんなことないって」 「そんなことあるわ。じゃあまた月曜日な」 「うん。またな」 紫輝はそう言って電話を切った。相談前より気持ちが明るくなっていた。心のどこかで返事をしたいと思っていた。だが、不安がその気持ちを押し殺そうとしていた。だから、紫輝は無意識に誰かに後押しを求めていた。 紫輝は遺書をもう一度手に取った。誰かは分からないが、もし苦しい思いをしているのなら、力になりたいと思った。手は届かなくても文字は届くかもしれない。 もう二度と自分の弱さで、救えたはずの命が救えないなんてことは経験したくなかった。 次の日、早速私設私書箱の登録へ向かった。幸い紫輝が住んでいる地域にも、私設私書箱はあり、電車で行ける距離だった。登録も比較的簡単にすることができた。 帰宅して紫輝は早速手紙の返事を考えた。だが、いざ書こうとすると内容が難しい。遺書を書いた人物の弟へのメッセージ。顔も名前もどこに住んでいるのかも知らない人物。紫輝は書き始めては消してを繰り返していた。紫輝は悩んだ末に、できるだけ弟を元気づけるような文章を書いた。最後には紫輝の祈りを込めて、遺書を書いた本人が生きていた時の思いを綴った。
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