The World March.

7/10
前へ
/10ページ
次へ
 魔法属の人間たちは、自らの愚かさを理解することなく、その一生を終えるのだろう。  夜になれば漆黒の闇が海にヴェールをかけて皆を眠りに誘い、夜に生活するモノたちは、息を殺し夜闇に溶け込むように生活をするのが海の中の日常だ。  月のない夜は、夜目の聞かない人魚たちは岩場の海を見張ることは危険だと言う、王の言葉により監視をやめている。 「んん、陸にある炎や灯りを海でも使えるようにしたいな。どうにか海にも持ってこれないだろうか」  石板に書かれた報告を確認しながらアーロンはぼやき、いつもより暗いことに気がついた。 「月のない夜……」  リーファと出会い、会話をした日から気になっていることがある。 「いってみるか」  同胞の魔力が消える場所、岩場近くの海へと泳ぎ出す。朝日が綺麗に見えるからというだけで、魔法属の人間も来る場所へ行くことがあるのだろうかという疑問があった。 「吉と出るか、凶と出るか……」  昼間の流れとは違う潮の流れのなかを泳いだ。  目の前にあるのが、眠る魚か、珊瑚かすら判らない闇のなか、アーロンは目的地にたどり着いた。 「んー、んん?」  海底をゆっくりと目を細めて見る。海底に転がるモノが石か、貝か、それ以外かくらいは判るだろうと思ったが、全く判らない。月や太陽の光の偉大さを噛み締めながら岩場の周りを往復していると、突然海面が明るくなり、ドボン、ボチャン、とナニかを投げ入れる音がした。  海にナニかを投げ入れる不届きモノは誰かと、近くの岩場の影からアーロンは覗きこむ。 「魔法属の人間」  そこにいたのは、火を焚いて足元を照らしながら、拳くらいや、抱えるほどの大きさをした石のようなモノを海に投げ込む男たちがいた。  なにを話しているのか判らないが、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて最後の石を投げ入れるのを見て、アーロンはリーファの言葉を思い出した。 「魔法石かもしれない」  なにか特別な魔法をかけた魔法石だったら、人魚たちは煌めく石に好奇心から近づき、触るかもしれない。 「なにか、光……できれば夜の海を照らすくらいの光なんて、どうすればいいんだ?」  知識欲の強いアーロンは海のなかで使える魔法はほぼ全て使うことができるが、海のなかではぼんやりと周りを明るくする程度の光魔法しかない。わずかな光をどう増幅すればいいのかと頭を悩ませていたとき、よく知る声が聞こえた。 「あら、久しいわね。アーロン。最近、ここら辺には、変な魔法属の人間が出入りするから顔を出してたら危ないわよ?」 「シーヴァ、本当に久しぶりだ」  歌うように忠告をしたモノは、美しい女の顔を持ち、鳥の身体をしたセイレーンのシーヴァだった。アーロンにとって唯一陸の近くで生活している存在だ。 「なぁ、人間たちはナニを海に投げ入れているか知っている?」 「ナニって、あれは魔法属の人間が採掘する宝石よ。多少魔力があるって前に言ってたかしら……」  魔法属の人間から、海の魔物として代表的に恐れられるセイレーンは、多くの言語を操る種族で、魔法属の人間の言葉も多少理解できる。 「やっぱりか。ねぇ、人魚狩りって聞いたことないか?」 「人魚狩り? んー、そんな言葉は聞いたことないわね。気になっているのは、さっき投げ入れた石。毎回月のない夜に投げ入れて、満月が沈んだ早朝に引き上げにくることね。なに、人間たちの言う〝妙薬〟。また人魚なの?」  バサリと翼を何度か羽ばたかせたシーヴァは困ったように首を傾げた。 「私たちも、ああいう風に石を入れる人間が増えてて困るのよ。潮の満ち引きには関係はいとはいっても、波が狂うの。それに、〝妙薬〟なんて懐かしいわよねぇ。たしか、五千年以上前に魔法属があの地を穢した原因だったわよねぇ」  リーファから聞いた、現在エルフが住む秘境は元々は魔法属の人間が住んでいた土地だったという話は本当だったのかと目を見開く。 「まさか、この間エルフに会った時、聞いた話は本当だったのか。魔法属の人間はその昔、我らを喰っていたという……」 「本当よ。人魚はこの海全体に住んでいた。でも、人間による乱獲で数を減らしていき、今の住む地へと移住したの。その昔は私たちも変身魔法で人魚になって一緒に遊んだものだけど、そんなことがあったから辞めてしまったわ」  記憶を懐かしむように微笑むシーヴァは、美しい。 「じゃあ、今、魔法属の人間が住むというという方の空を覆う、黒い空は〝人魚の呪い〟か……?」 「恐らくはそう。でも、よく知っているわね。エルフに会って聞いたって、エルフは魔法属の人間に干渉しないはずよ。この話を知っているとは思わなかったわ」 「とても、聡明なエルフだったよ」  アーロンは自分の声が震えないように腹に力を籠める。 「昔、旅をするエルフがいたと聞いたことがあるわ。たしか王族の出身だとか。エルフは義理堅いと聞くわ。アーロンも善き縁があったのかもしれないわね」 「いい縁って……今それどころじゃないんだけど」 「あら、たまーにいるのよ? エルフと番う人魚。魔法属の人間の動向は私も注意しておくから、アナタは帰りなさい。もしも本当に人魚を人間が狩っているのなら危険だわ。王様によろしくね」 「あぁ、うん、情報もありがとうシーヴァ」  飛び去るシーヴァを見送り、急く気持ちを抑えながら、海に戻る。早くしなければ、次の被害が出てしまうかもしれない。王にこの情報を早く届けなければと泳ぎを強めた瞬間、アーロンの視界は暗転した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加