The World March.

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 魔法属の少年は、予期せず出会ったリーファに連れられエルフが住む秘境・パライーソへたどり着いた。目の前を歩くリーファは一言も喋らない。 「なんで魔法属の人間を、ここへ連れてきたんですか?」  少年が住んでいた街とは比べることすら烏滸がましいほど、美しい。  空気は澄み、水は透明。木々は青々と繁り、太陽の光が燦々と降り注いでいる。 「だからね? 本来、魔法属の人間ならばさっきの樹に仕掛けられた転移魔法は使えないはずなんだ。今まで、数千年以上の時のなかで、そんな誤作動したことはなかったから、考えてみた」  一言ずつ言葉を選ぶように、ゆっくりと話を進めるが、その瞳は確信を持った光を宿している。 「君は、人魚の言葉に導かれて私のところへとやってきた。他の魔法生物たちの言葉も判るんじゃないかな?」 「わかり、ます」  小鳥たちの囁きも、魔獣たちの言葉も、全て理解できるからこそ、今までなんとか生きてこれた。 「君、十年以上身長変わらない?」 「はい、お屋敷の主人に買われてから服も靴も変わらないです」 「食事は必要性をあまり感じていない?」 「はい、空腹はあまり感じなくて。できるだけ綺麗な空気の場所にいると、ほぼ空腹は感じません」 「食事よりも水を飲むほうが大事じゃない?」 「はい……ずっと洗濯当番をしていたのは、井戸の水を飲めるからです、けど、なんで?」 「君、エルフの血を受け継いでいるかもしれないね」  優しく微笑むリーファの言葉に、少年は目を白黒させる。 「え、え? なんでそうなるんですか?」 「君は、エルフと同じ生き方をしているんだけど、魔法属の人間にはできないんだよ」  栄養のために食事を定期的に摂取し、足りなければ腹部が異様に腫れ上がり餓死し、適度に摂れていれば成長し老いていくのが、人間であり生きるモノの摂理だ。 「エルフは一定の年齢までは人間と同じように成長するが、以降の成長は緩やかになる。生活環境がよくなければ、食事ではなく水や大気から生命力を補うことができ、同族以外の言葉も理解できるんだよ」 「え、でも、僕は親のいない孤児だから、人買いの元で生きていた、はず……」  人買いに売られるくらいの年齢ならば、親の記憶は多少なりともあるだろうに、なぜかお屋敷の主人に買われるまでの記憶がない。腰から力が抜け、心臓の脈が冷たく速まる。呼吸は浅く、視界は狭窄になって真っ暗になりかけて青ざめた少年の頬を、リーファは手のひらで支え、視線を合わせて、全てを見透かしたように微笑んだ。 「あぁ、やはりそうか。君はエルフの〝  〟だね」  カチリと少年のなかで欠けていたカケラが、はまった音がした。 「おかえり〝  〟」  優しいリーファの声に安心し、少年は意識を手放した。  世界は泡沫のように変動する。  魔法属の人間は、世界を破壊し、汚染していく。  その行動は世界からすれば、一瞬にも満たない時間のなかで行われ、直すにはあまりにも短い時間だと、エルフは理解している。
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