サトウくんと午前三時の扉

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「僕本当は、外科医になりたかったんだよね」  言いながら、サトウくんは針に糸を通した。 「げかい?」 「真夜中の三時くらいにさあ。地下の手術室で、普通に病院も行けないような、救いようのない人を救うの。それで、たまに信じられない額の報酬をもらって、それなのにあえて普通に生きてくの。スゴ腕外科医っていう正体を隠してね」 「へえ」  全然分からない。と、モモは思った。 「でも、真夜中の三時に働く人は、ちょっとかっこいいかも」 「ね? そうだよね」  サトウくんは、モモが同じことを思ってくれたのでうれしかった。  だから、 「だって、真夜中の三時には、扉が開くからね」  と、そんな風に言うと、 「は?」  とモモは首をかしげてしまった。  なのでサトウくんはあわてて、 「例えばの話だよ」  と、お茶を濁して、針をはずれたページのはしっこに刺した。 「サトウくんは、でもさあ。お医者さんといえば、お医者さんだよね」  と、モモは言う。 「サトウくんは、本のお医者さん」 「いや、そんな。僕はただの古本屋だよ」
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