3 思い出の海

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午後の授業は淡々と進み、時刻は既に4時半。 そして7校時目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 俺はチャイムと同時に帰りの準備を始めた。 「海陸急げ!今日も一番乗り間に合わせるぞ!」 声のした方を見ると、部長が教室のドアを全開にして俺を呼んでいた。 部長とは部活がない日以外も毎日一緒に帰っている。俺たちは最も早い4時32分のバスに乗るためにいつも大急ぎで学校を出るのだ。 「行くぞ!」 俺は部長と合流して学校の目の前にあるバス停を目指して走り出した。 「あ〜またあの二人は廊下走って!怪我しても知らないよ〜!」 先生の声もお構い無しに俺たちはどんどん加速していつも通り1番にバス停に着けた。 「よっしゃ!今日も1番!」 「おう......!まじで......いい運動......!」 部長は今日の全エネルギーを使い果たしたようだ。 その内すぐにバスが来た。 俺たちは二人席に座って沢山話をした。 でも、その内二人の間に何だか分からない沈黙が訪れた。 沈黙を紛らわすためにわざとらしく車内を見渡す。 バスの中は他の生徒でいっぱいだ。 そういえば、部長とはいつも帰りに沢山話をするのに何故か恋愛系の話をしたことが無い。 前もそうだった。 俺が勝手に誰かを好きになって、誰かに相談することも無く、勝手に終わった感じだ。 別に今思えばそれで良かった。 今までは、本当にそれで良かったはずなんだ。 どうせ、俺が誰かを好きになっても、その人は俺を好きにならないしその恋は桜のようにすぐに散ってしまう。 そんな黒い固定概念が俺の心に深く住み着いてなかなか出ていこうとしなかった。 でも、今回は......今回だけはそんな風に簡単に終わってしまうのは絶対に嫌だと、俺の心が叫んでいた。 絶対に嫌だというか、この恋が簡単に終わるのは絶対にダメな気がしたんだ。 こんな事をぐるぐる考えていると、気づいたら俺たちがいつも降りるバス停だった。 俺たちは大急ぎで荷物を抱えてバスを降りた。 「じゃあな」 部長はぎこちなく手を振って俺とは正反対の方向に歩いていった。 「おう、また明日......」 何だろうこの変な感じ。 心の中のもやもやが現実にも影響してるみたいじゃないか。 俺たちって今まで深い話とかしたこと無かったんだっけ? いつもふざけた会話しかしたこと無かったのかな......。 俺は一人、今までの人生(せいぜい18年だが) を振り返りながら家のドアを開けた。 「ただいま〜」 当然返事は無い。 お兄ちゃんはバイト、お母さんは仕事、 お父さんも、仕事だからだ。
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