翡翠の通り道

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「馬鹿だったなぁ…」  思わず漏らした言葉に引き摺られ、嗚咽が溢れた。  桜の時期でなかったのが幸いだった。  こんな爺の泣きっ面など見れたものではない。  鮮明に燦然と溢れ出す思い出と後悔の念に胸が詰まり、堪らず私は茂る草の上に膝を突いた。 「じぃじ、痛いの痛いのとんでぇけ!」  孫は一生懸命に項垂れた私の頭を撫でては、おまじないを唱えて慰める。  まだ幼いというのに、なんて妻に似て―――、幼き日の娘に似て、心根の優しい子だろうか。 「ありがとう…、ありがとうなぁ…」  顔を拭いながら不器用に私は笑った。  木の葉を鳴らす旋風は、白い真昼の日差しの温かさを携えて、私の濡れた頬を撫でるように吹き抜けた。 「早く帰らないとママが心配する…、また翡翠(カワセミ)を見に来ようね」  そう告げながら、私は小さな手をしっかり握り直して立ち上がった。  煌めく木漏れ日の中、小さな歩幅に合わせてゆっくりと歩き出す。  歩きながら私は少しだけ背筋を伸ばして、己に残された時間の使い方を考えながら、娘の待つ古ぼけた我が家へと孫の手を引いた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加