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近くの和菓子屋へ、散歩がてらに孫の手を引いて娘に頼まれた柏餅を買いに行った。
ガラスの向こうの和菓子を見た孫は舌足らずの言葉で、綺麗だね。と伝えてくれる。
孫はまだ二歳になったばかりで和菓子の類は食べられない。
また来年だね。と言いながらお店を出た。
目の前は新緑の千本桜。
穏やかなせせらぎに木漏れ日が落ち、近隣の方が手入れする花壇の土手を色取り取りの西洋花が彩る。
「川沿い、歩いてみようかね…?」
孫に聞いてみれば元気な返事が返ってきた。
ゆっくりと孫の元気な歩幅に合わせて、腰を少し屈めて―――。
孫が足を滑らせないよう、しっかりとその手を握る。
川底にはよく肥えた地味な鯉が気持ちよさそうに泳いでいて、ガサガサとこちらに気付いた呑気なカルガモ親子が慌てて茂みから飛び出し、駆け足で川へと飛び込む。
微睡みを邪魔されたとばかりにプリプリと尻尾を振る親鳥と、その後を一生懸命に追い駆ける仔鴨の様子は何とも愛らしい。
「あ!ピッピ!」
孫が川の方を指さして、唐突に声を張り上げた。
「あぁ、カルガモのことかい?」
そう訊ねた瞬間だった。
甲高い囀りが響き渡り、私は水面を滑るように下流へと過ぎ去った小さな宝石に目を見張った。
―――純次さん、見た!?翡翠!
途端に蘇った懐かしい妻の声に、私は思わず動けなくなった。
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