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「馬鹿だったなぁ…」
思わず漏らした言葉に引き摺られ、嗚咽が溢れた。
桜の時期でなかったのが幸いだった。
こんな爺の泣きっ面など見れたものではない。
鮮明に燦然と溢れ出す思い出と後悔の念に胸が詰まり、堪らず私は茂る草の上に膝を突いた。
「じぃじ、痛いの痛いのとんでぇけ!」
孫は一生懸命に項垂れた私の頭を撫でては、おまじないを唱えて慰める。
まだ幼いというのに、なんて妻に似て―――、幼き日の娘に似て、心根の優しい子だろうか。
「ありがとう…、ありがとうなぁ…」
顔を拭いながら不器用に私は笑った。
木の葉を鳴らす旋風は、白い真昼の日差しの温かさを携えて、私の濡れた頬を撫でるように吹き抜けた。
「早く帰らないとママが心配する…、また翡翠を見に来ようね」
そう告げながら、私は小さな手をしっかり握り直して立ち上がった。
煌めく木漏れ日の中、小さな歩幅に合わせてゆっくりと歩き出す。
歩きながら私は少しだけ背筋を伸ばして、己に残された時間の使い方を考えながら、娘の待つ古ぼけた我が家へと孫の手を引いた。
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