駄菓子屋のおばちゃん

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 おばちゃんの駄菓子屋で何か買って帰ろう。子供の頃はできなかった大人買いも今ならできる。私はスモモが好きだったから箱買いしようか。甘塩っぱくて食感が堪らない『のしいか太郎』や、きびをまったく使っていない『きびだんご』も食べたい。それに『パレード』という五十円で買えるジュースもあった。当時はプラモデルも売っていたけど、今も販売しているのだろうか? 他にお金を使うところはここにはない、今日は思い切り散財しよう。でも、これだけ買うと持って帰るのが大変だ。  そんなことを考えながら、私は学校から駄菓子屋へ続く道を歩いていた。寂しい想いを頭から振り払うように。  その時、チリン、と鈴の音がまた聞こえた。駄菓子屋の猫の鈴だ。視線を向けると、そこには道を上ってきたときと同じように茶トラの猫がいた。 「ニャー」  と猫は一声鳴くと、道端の草叢(くさむら)に姿を消した。 「あれ?」  私はその草叢に違和感を覚えた。何故なら、そこにあるのは草叢ではなく駄菓子屋であるはずだから。  駄菓子屋はもっと先だったろうか。私は道をさらに下ったが駄菓子屋は見つからない。今度はもう一度、道を上る。再び小学校が見える位置まで戻ったが、やはり駄菓子屋はなかった。  先ほど猫が消えた草叢に戻る。本当は最初から気付いていたのだ。駄菓子屋は果樹園と畑に挟まれて建っていた。草叢はその果樹園と畑に挟まれているのだ。 「おばちゃん……」  後から両親に確認したところ、小学校が廃校になると同時に駄菓子屋は閉店していた。それから数年後、おばちゃんは体調を崩して入院し、退院後は息子夫婦と暮らすことになったという。それも十年ほど前のことで、それ以後のおばちゃんの情報を両親は知らなかった。  願わくば今もおばちゃんには元気でいてほしい。しかし話を聞く限り、それは難しいのだろう。  私が会ったのはおばちゃんの魂だったのだろうか、それとも幻を見ただけか。どちらにしろ、おばちゃんの、あの暖かい笑顔を見ることも、あの駄菓子屋で買い物をすることももうできない。そして、私が通った思い出の小学校もまもなく姿を消すのだ。                        -終-             
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