7人が本棚に入れています
本棚に追加
「平山孝之さんの奥様ですか? ××署の田所です」
警察官というのは、いつでも落ち着いていて凄いと思う。私はどうやってここまで辿り着いたのだろう。それすら朧げだ。とにかく呼吸をしないと……。
「孝之は? 孝之の容態は!?」
「そちらについては、担当の医師からお話がありますので」
担当の医師は、年は三十代と言った所か。精悍な顔つきをした男性だった。
「奥さん。落ち着いて聞いて下さいね。ご主人は今夜が山になるでしょう。手を尽くしましたが、傷が臓器にまで達していて、非常に危険な状態になっています」
私は、その場で泣いて泣いて、声が枯れるほど嗚咽を漏らした。嫌だ。孝之が私の傍から居なくなったら嫌だ。
「それで……犯人は?」
やっと、声を絞り出して警察官に疑問を投げかけた。
「犯人は最初に通りすがりの女性を刺した所、ご主人に取り押さえられそうになり刺したようなのです。そして、ご主人を刺した後、通りかかった柔道部の大学生に取り押さえられました。今は署に連行して取り調べをしています」
「そう……ですか。捕まっているのね。良かった……」
何が良かったなのか。犯人を恨んでも恨んでも、孝之が目を覚まさなきゃ意味が無いのよ。私にとって、孝之は最愛の夫であり、この世で一番大切なパートナーなんだから。
「先生、今日はここで孝之の回復を待っていいんですよね?」
「えぇ。あちらに共用スペースがありますから。温かいお茶もあります。そちらでお待ち下さい」
最初のコメントを投稿しよう!