烈風

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風が暴れる。 舵はひとりでに回る。 トキとヒワを取り囲んだはずの兵士たちは、風に殴られ、装飾布に巻き取られて満足に動けない。 玉座の背後のガラスが割れる。 色とりどりのステンドグラスが降り注ぐ。 割れた窓から横殴りの夕陽が射す。 「それ、似合わない」 ヒワは、トキの袖を強く引いた。 「里に帰ろう」 「王を止めないと」 「もういい。  この船はもう終わりだ」 軋む船体のどこかで、バキバキと音がする。 梁や支柱の折れる音。 「はやく」 「すぐ終わる」 振り解き。 槍をかわし。 風の間を縫って。 トキは玉座への階段を駆け上がる。 旋回する船の中。 玉座は倒れ。 王は、床を這いつくばっていた。 初めて笑みを消していた。 側近は、王など放ってどこかへ行っていた。 追いついたトキは。 それを見下ろして立っていた。 「家族も、  友も、  お前が奪ったんだ」 「トキ!だめ!」 「もう奪わせない!」 いつのまに、背後にいたのだろう。 大きな手が、剣を持った手を止める。 トキと、同じ髪。 「父さん?!」 「お前、  こんなことのために持たせたわけないだろう」 トキを王から引き剥がす。 「空を血で汚すな」 「どうやって牢を」 「あの火傷顔のが逃してくれたんだが、  なんだあいつ。  風に嫌われすぎだろ。  二度と乗せて飛ばないからな」 振り返ると。 窓の外。 陽光の中に、色とりどりの気球が浮かんでいた。 次々にロープを繋ぎ、空渡りたちが乗り込んでくる。 その中に、セイタカもいた。 「急げ!  この船はもう持たない!  全員外の気球に乗り移れ!」 自分の気球から4人の男を下ろす。 「南方遠征を一緒に生きた友だ。  手を貸してくれる」 男たちは、戦意を失った兵士たちに手を貸しにいく。 その。 さらに奥を父が指さす。 「トキ!  ちょっと目を離した隙にはぐれたきり、  戻らないと思ったら、  こんなとこで何やってんだよ!  それ似合わねえぞ」 サルクイだ。 「分かってる」 みんなして同じことを言う。 ようやくトキは、笑った。 「この船の始末は俺がつける。  あの王も。  それが最後の仕事だ。  お前は行け」 「でも」 「大丈夫。  母さんが道案内してくれる」 父の手が離れる。 剣を見つめる。 「父さんのような、空渡りになる」 そう言って。 剣を鞘に戻す。 父は笑った。 笑い返して。 駆け出した。
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