二人のため

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 次の仕事が決まらないうちに匠は退職を迎え、しばらくは職業安定所にも通い、一生懸命就職先を探していた。  何度か面接まで選考は通るものの「思っていたのとは違った」「給料が安い」「福利厚生が悪い」などと理由をつけては、自分から企業へ辞退をしている。    失業手当も受けられなくなり、貯めていた貯金を切り崩していく日々。    危機感を覚え、就職について話をするも 「異動なんてしなかったら、続けられていたし。会社がまさかそんな風になるとは思っていなかった。俺のせいなの?ずっと働かないって思っているわけではないし、就職先だってちゃんと探してるよ。なんで彼女なのにわかってくれないんだよ!?」  温厚であまり怒ったことがない匠と初めてケンカに発展してしまった。    婚約を結んだ後に引っ越したマンションは、家賃もそれ相応。  以前の匠の給料と私の給料であれば、困ることもなかったけど、私一人の給料で家賃、光熱費、食費、もろもろを支払っていくのには限界。  ただ私が働いている分、家事はほとんど匠がやってくれるから。  匠が納得いく仕事が決まるまで二人でなんとか協力してやっていけば良い、私が頑張れば良いと思った。  その生活が続いている。  電車から降り、駅の中を歩きながら時計を確認する。  今日は余裕があって良かった、普通に歩いても全然間に合う。  駅から十分ほどのコンビニへ。  制服に着替え 「お疲れ様です。よろしくお願いします」  顔見知りのスタッフと挨拶を交わす。 「いらっしゃいませ!」    日中、印刷会社で接客することはない。  だが、学生時代もコンビニでアルバイトをした経験があり、仕事に慣れるのはすぐだった。    帰宅ラッシュの混雑時間帯を過ぎれば、お客さんもまばらになる。  そんな時 「河合さん、ちょっと休憩してきたら?」  私の事情を知っているパートさんに声をかけられる。 「ありがとうございます。お言葉に甘えて。ちょっと飲み物を飲んできます」  印刷会社ではたまに小言を言われることもあるが、コンビニでは人間関係に悩むことはなかった。店長をはじめ、みんな良い人で良かった。    スタッフルームへ行くと、店長が居た。  まだ残ってたんだ。  「お疲れ様です」  私が声をかけると 「お疲れ様。七緒ちゃん、大丈夫?疲れてるだろ」  店長の五十嵐(いがらし)さんは五十代くらいの男性。  私の事情を理解して雇ってくれた人だ。
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