二人のため

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「大丈夫です。ありがとうございます」 「七緒ちゃんがいてくれて助かるよ。なかなかスタッフが定着しないし。特にこの時間帯は。求人もかけたところだし。良い人が見つかればいいな」 「私の方こそ中途半端な勤務時間になってしまうのに、助かっています。長く続けてくれる人、見つかればいいですね」  私の十八時から二十三時までという勤務時間は、店長がいつも調整してくれているから。本当はもっと長くシフトに入れれば良いんだけど。  次の日も普通の仕事がある私にとって、六時間以上働くことはキツかった。  休憩を終えて、商品を陳列していた時だった。  あっ、いつものお客さんだ。  ほとんど毎日来る常連さんもいるため、つい顔や決まって購入するものまで覚えてしまう人もいる。 「いらっしゃいませ」  隣に来てドリンクを選んでいた常連さんに声をかける。  私が声をかけると、軽く会釈してくれた。    ふとレジを見ると、お客さんが並んでいた。  行かなくちゃ。  慌てて隣のレジで対応をする準備をし、二番目に並んでいたお客さんに声をかける。  対応が終わり、次のお客さんの顔をチラッと見ると――。  先ほどまでドリンクを選んでいた常連さんだった。  この常連さん、ほとんど毎日同じくらいの時間に来てくれる。  180センチくらいの身長が高い男性で、メガネをかけており、いつもフードか帽子を被っている。そのため顔はよく見えないが、その容姿に特徴があったため、彼のことを覚えたのもすぐだった。  私より年上に見えるけど、どうなんだろう。  まるで芸能人が変装をしているかのようなカッコだ。  それに――。  こんなこと考えちゃいけないとは思いながらも、この人の手が好きだった。      長い指に手の甲に浮かぶ血管が好き。  会計の時、ふと見惚れてしまうことが多い。  指輪はしていないから、結婚とか彼女はいないのかな。  そんなことを考えながら常連さんの対応を終えた。
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