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すれ違い
その後、何事もなく帰宅した。
帰ると、二十三時三十分を過ぎていた。
家の中に入るとどっと疲労感が襲う。
「ただいま」
声をかけリビングに向かうと、匠がテレビを見ながら笑っていた。
前は玄関まで迎えに来てくれたのに。
「あっ、おかえり。お疲れ様」
私に気がついて彼がソファーから立ち上がる。
「ご飯、もう食べる?温めて良い?」
先にシャワーとも思ったけど、今日の夕ご飯は唐揚げだっけ?
寝る直前に食べるのは良くない気がするから、少しでも早く食べた方が良いよね。
「うん。食べる」
私が返事をすると
「わかった。温めるね」
そう言って彼は準備をはじめてくれた。
今は男性が主夫だっておかしくはない時代だもん。
こうやってちゃんと家事してくれるし、ご飯の準備までしてくれるんだから、頑張って働かないと。
「はい。お待たせ。俺、風呂入ってくるから」
「わかった。ありがとう。いただきます」
私の前にワンプレートのお皿を置き、彼はお風呂に向かった。
彼の作ってくれたおかずを見る。
うーん。あれ…?これって。
キャベツの千切りの上にポテトサラダと唐揚げ。それにちょっとしたお漬物。
パクっとポテトサラダを食べ、その後、唐揚げを口に入れた瞬間
「やっぱり……」
声が漏れてしまった。
生まれてから何回か食べたことがある味。
チェーン店の唐揚げ弁当の味がする。お昼頃に買ったのかな。
なんかしんなりしているし。
それをお弁当のまま出さないで、わざわざお皿に盛り付け直したってことは、匠は気まずいとか思っているのかな。
忙しかったなら言ってくれればいいのに。
別にお弁当がイヤなわけじゃない。
けど、ここ最近、ずっとお惣菜を買ってきては作ったかのように見せかけているのには薄っすら気づいていた。
<俺が作ったんだ>なんて言う嘘をついてほしくはないし、それに、やっぱり毎食お惣菜だと食費が嵩むし。今日はまだ安いお弁当屋さんだったけれど、この前はデパ地下のおかずフルコースだった気がする。
匠がほぼ専業主夫になってから、生活費は全部任せてるし。
お風呂から出てきたら聞いてみよう。
「あー。気持ち良かった。俺、もう寝るから」
彼はそのまま寝室に向かおうとした。
「ちょっと待って」
「なに?」
「あのさ、今日の夕ご飯、匠が作ったの?」
ピタッと彼の動きが止まった。
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