すれ違い

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「おはようございます」    打刻を済ませ、自席へと座る。 「おはようございます。先輩、なんか顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」  声をかけてくれたのは、私の隣の席に座っている宮田 環奈(みやた かんな)ちゃん。  私より入社が一年後の後輩。  私のマンションに来て遊んだり、ご飯を食べたり。社内で一番仲が良い存在。マンションに遊びに来た時に匠に会ったこともあるし、彼の事情とかも知っている。 「うん。大丈夫!ちょっと疲れてるだけ」 「そりゃそうですよ。ダブルワークとか私には絶対できません。尊敬します」  綺麗に整えられた爪、フワッとしているボブ、目がまん丸でお人形さんみたい。長い睫毛はエクステか睫毛パーマ(マツパ)でもしてるんじゃないかって思うほど黒々としていて、さり気なく香る香水がさらに女性らしさを引き立たせている。  環奈ちゃんとは一つしか年齢が離れていないのに。彼女と比べると自分が老けているように感じる。生活するのに一生懸命で、それがにじみ出てしまっている気が……。  明日はアルバイトはあるけど、会社は休日だし、ゆっくりしたい。  その日も特にトラブルなどはなく、いつも通り定時に上がろうとしていた時だった――。 「河合さん。さっき途中まで入力してくれた数値なんだけど、たぶん、一行ずつズレてる。修正してくれない?」 「えっ?」  先輩に指摘され、確認する。  本当だ、一行ズレてる。どうしてこんなミス、最初に気がつかなかったんだろう。これ全部修正してたらもちろんアルバイトなんて間に合わない。 「すみません。月曜日に修正でも大丈夫ですか?」  私が後日ということを伝えた瞬間、先輩の眉目がピクッと動いたのがわかった。 「月曜日にはその数値のデータ計算をしようと思ってたんだけど。自分のミスが原因なんだから、たまには少しくらい残って仕事しても良いんじゃない?」  先輩が言っていることは真っ当だと思う。昔の自分ならなんの躊躇もせず、残って仕事をしていた。  アルバイト先に遅刻の連絡をして、会社に残り、修正しようか悩んでいた時だった。 「あっ、良かったら私、河合先輩の代わりに残れますよ!河合先輩、事情があるみたいで大変そうですし」  はいっと、環奈ちゃんが代わりますと挙手してくれた。 「ごめん。本当に大丈夫?」 「はい、大丈夫です!用事もないですし!」  ああ、環奈ちゃんが天使に見える。 「宮田さんが代わってくれるみたいだし、ここは協力し合いましょう」  私のを知っている課長が声をかけてくれた。 「宮田さん、本当にごめんね。今度何かお礼をするから」  帰宅前に声をかけると 「いいえ。先輩がミスするなんて珍しいですし。無理しないでくださいね。今度またお家に遊びに行きたいです」  早く帰ってくださいと手をヒラヒラさせ、気にしないでと促してくれた。 「すみません。お先に失礼します。お疲れ様でした」  いつもより深めに頭を下げ、バイト先へ向かった。 ―――・・・・・――――
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