435人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはようございます」
打刻を済ませ、自席へと座る。
「おはようございます。先輩、なんか顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」
声をかけてくれたのは、私の隣の席に座っている宮田 環奈ちゃん。
私より入社が一年後の後輩。
私のマンションに来て遊んだり、ご飯を食べたり。社内で一番仲が良い存在。マンションに遊びに来た時に匠に会ったこともあるし、彼の事情とかも知っている。
「うん。大丈夫!ちょっと疲れてるだけ」
「そりゃそうですよ。ダブルワークとか私には絶対できません。尊敬します」
綺麗に整えられた爪、フワッとしているボブ、目がまん丸でお人形さんみたい。長い睫毛はエクステか睫毛パーマでもしてるんじゃないかって思うほど黒々としていて、さり気なく香る香水がさらに女性らしさを引き立たせている。
環奈ちゃんとは一つしか年齢が離れていないのに。彼女と比べると自分が老けているように感じる。生活するのに一生懸命で、それがにじみ出てしまっている気が……。
明日はアルバイトはあるけど、会社は休日だし、ゆっくりしたい。
その日も特にトラブルなどはなく、いつも通り定時に上がろうとしていた時だった――。
「河合さん。さっき途中まで入力してくれた数値なんだけど、たぶん、一行ずつズレてる。修正してくれない?」
「えっ?」
先輩に指摘され、確認する。
本当だ、一行ズレてる。どうしてこんなミス、最初に気がつかなかったんだろう。これ全部修正してたらもちろんアルバイトなんて間に合わない。
「すみません。月曜日に修正でも大丈夫ですか?」
私が後日ということを伝えた瞬間、先輩の眉目がピクッと動いたのがわかった。
「月曜日にはその数値のデータ計算をしようと思ってたんだけど。自分のミスが原因なんだから、たまには少しくらい残って仕事しても良いんじゃない?」
先輩が言っていることは真っ当だと思う。昔の自分ならなんの躊躇もせず、残って仕事をしていた。
アルバイト先に遅刻の連絡をして、会社に残り、修正しようか悩んでいた時だった。
「あっ、良かったら私、河合先輩の代わりに残れますよ!河合先輩、事情があるみたいで大変そうですし」
はいっと、環奈ちゃんが代わりますと挙手してくれた。
「ごめん。本当に大丈夫?」
「はい、大丈夫です!用事もないですし!」
ああ、環奈ちゃんが天使に見える。
「宮田さんが代わってくれるみたいだし、ここは協力し合いましょう」
私の事情を知っている課長が声をかけてくれた。
「宮田さん、本当にごめんね。今度何かお礼をするから」
帰宅前に声をかけると
「いいえ。先輩がミスするなんて珍しいですし。無理しないでくださいね。今度またお家に遊びに行きたいです」
早く帰ってくださいと手をヒラヒラさせ、気にしないでと促してくれた。
「すみません。お先に失礼します。お疲れ様でした」
いつもより深めに頭を下げ、バイト先へ向かった。
―――・・・・・――――
最初のコメントを投稿しよう!