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再び白い灯台
時刻は午前5時。
果夏は一人、岬に建つ白い灯台を背にして海を眺める。
すでに水平線には太陽がその存在感を示している。
今日も暑くなりそうだ。
そういえば、灯台って白色か赤色って決まってるんだって。
どういう理由かも健太が教えてくれたけど忘れちゃった。
「 か~なちゃん、デートには時間がちょっと早すぎない?」
昨日の夜、健太の部屋の扉に
「 明朝、灯台で待ってる。」と張り紙をしておいた。
「 ねぇ、健太は私の何をどこまで知ってるの?」
果夏は健太の目を真っ直ぐ見つめて言った。
健太はその視線をしっかりと受け止めてから口を開く。
「 日本一の飛込み選手、葉月果夏。
ある日突然、大会から、いや、練習場からも姿を消した若き天才ダイバーってことぐらいしか知らなかったよ。
ここに来るまではね。」
健太はゆっくりと呼吸をして、間をとった。果夏の表情を観察し、再び話し始める。
「 怪物みたいなオーラとか、張りつめた緊張感とか、そんな物を纏ってる孤高の存在、みたいなのをイメージをしていたんだけどね、一緒に働いたり、一緒にごはん食べたりしてたら、17歳の普通のがんばり屋さんの女の子だった。」
南川とは少し違うけど、健太の表情にも優しさや慈しみみたいなものを感じた。日焼けで真っ黒だけど。
「 私が突然、飛べなくなった理由は知ってる?」
「 いや、知らない。
でも、飛込みに関係する何かっていうのだけはわかる。」
「 どうして?」
「 これは感覚的なことなので、間違ってたらごめんよ。
俺、果夏ちゃんの飛込み、実際に見たことがあるんだ。
去年の全日本選手権の決勝。
5本、全ての演技が素晴らしかったんだけど、特に最後の演技。
こうやって飛込み台ギリギリの場所に後ろ向き立って、キュルキュルって捻って飛び込むやつ。
キラキラ輝いていて、本当にかっこよくて最高だった。」
果夏が一番得意としていて、一番大好きな技、5253Bのことだ。
「 何て言うか、構えている時から背中に翼が見えたというかね。生えてるわけないんだけど。
でも、この灯台で果夏ちゃんを初めて間近に見たとき、傷ついた翼のまま、無理に飛ぼうとしているような姿に見えちゃってね。
だから慌てて引っ張って果夏ちゃんに怒られちゃったね。」
そうだった。
あの時が健太との初めて会った朝。
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