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パンパンとお尻の土埃を払って立ち上がり、一歩、二歩と坂道のほうへ引き返したところで、私は地面に転がる小さなキャンディの袋に気がついた。
「嘘、これ……なんでーーー!?」
最近じゃついぞ見かけなくなったキャラメルポップコーン味のキャンディ。
茶色っぽい地味なパッケージだから、来た時は気づかなかったのかも。
ここに落っことされてからまだ日の浅そうな綺麗なキャンディを手のひらにのっけて、しげしげと眺めてみる。
「………」
突然目の前に転がってきた偶然に、私のためだけの素敵な物語を付け加えたってーーーきっとだーれも困らないだろう。
「ありがと、直人。会えて嬉しかった」
初恋の味がするキャンディをポケットにころりと放り込み、ちょっぴり苦い古傷に甘くて優しい新たな記憶を上書きする。
そして。あの頃とは似ても似つかぬへっぴり腰で坂道を下り、私は思い出の地をあとにしたのだった。
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