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第3話「雨の土曜日」
土曜日の勤務はたいてい暇をもて余す。
遅番のときは事務所の受付に入ることになるが、平日と違って電話も来客もほとんどなく、こうして座っている意味を見いだすのに苦労を要するほどだった。
早番の責任者として古瀬さんがいたため、昨日断ってしまった雑務を引き受け、それも手早く片付いてしまうと本当に手持ち無沙汰となり、どうにも決まり悪くなった。斜め後ろに座る古瀬さんも珍しく仕事が落ち着いたらしく、とろんとした目つきでパソコンを見ながら、たまに右手を口に添えて欠伸をしている。
午後三時。今日は終日通して晴れるでしょう、という天気予報は見事にはずれ、おもては篠突く雨がとどまる様子なく降りしきっている。
他に職員はおらず来客の予定もなかったので、給湯室でお茶をいれ、持参した焼き菓子――モロゾフのマドレーヌとファヤージュ――を添えて古瀬さんのデスクと、隣の係長のデスクにも置いた。
「ありがとう。済まないね」
とろんとした目を少し引きしめて微笑を返す古瀬さんを見て、私も少し頬を緩める。
普段座ることのない係長席に腰かけ、古瀬さんと並んでお茶を啜るのは、もしほかの職員が見ていたら異様な光景にうつるだろう。
古瀬さんもそれほど多弁な質ではないけれど、この人の作る沈黙にはほかにない優しさや、あるいはぬるさがある。無理に話題を模索するでもなく、かといってまるっきり黙殺するでもない、ある種の達観のようなものを感じる。
「そういえば、この前は申し訳なかったね」
古瀬さんが湯飲みを片手に持ったまま、身体ごとこちらに向ける。
「この前って?」
「ほら、先週まで来ていた実習生たちの指導、すべて君に任せてしまったからね。彼らだいぶクセがあったし、さすがの冬美さんも大変だったろうなと」
そういえば、そんなこともあったなと思った。
「実習記録の確認だけでもできればよかったけど、結局それも手伝えなくて、悪いことをしたなと気がかりだったんだ」
やっぱり、この人はぬるい。主任なんだからいちいち実習生の指導なんてする余裕はなくて当たり前だ。そうした指導は、現場のリーダーである自分の役割だと自覚している。古瀬さんが謝る理由など少しもなかった。
本来は、私が他の社員たちにもそうした仕事を振るべきなのだろう。そうすれば古瀬さんが無用な罪責感を抱くこともないのかもしれない。私も、でも彼がたぶんそうであるように下を育てる意識が希薄だったり、あるいは彼らとのコミュニケーションが億劫になったりして怠惰な抱え込みをしているから、仕方のないことだ。
「ホント、ぬるい人」
小声でつぶやきながら、手元の焼き菓子の包装袋を破る。
「もう一個、どうぞ」
不意討ちのように、古瀬さんの口にアーモンドたっぷりのファヤージュをつっこんだ。
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