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01 昔話の始まり
昔話をしてみたくなった。
「とみちゃん、放課後に裏山に行かない? 第二校舎の、裏。有名な。アレ」
花岡くんだ。片手で顔を覆っているにもかかわらず、にやけている様子を隠しきれていない。
「なんだよ、朝っぱらから。気持ち悪いな」
素っ気ない返事をして、思いっきり眉をひそめた。
「えー、いいじゃんいいじゃん! とみちゃんだけじゃないからさ。他にも誘っているからさぁー。行こうよーぉ!」
花岡くんは、とてもつまらなさそうに口をとがらせる。
「勘弁してよ。あそこ、幼稚園の頃から母ちゃんにも父ちゃんにも『行くな』て言われてるんだ。もしもバレたら、往復ビンタ十発くらいじゃ済まない」
「そんなこと言ったって、もう小学6年だろ? 十二歳だよ、十二歳。生まれてきてから十三年は経っている。多少の冒険はするべきだろ?」
俺は、ふう……と鼻息を荒く吐いてみせる。それから、察しろ光線を出しながら額をボリボリと掻く。
思いっきり恨めしい表情を作って、花岡くんに言う。
「しょうがねえじゃん、子どもだし」
「んなこと言わないでさー。俺、携帯電話も持ってるし、なにかあったら110番に電話すればいいだろ? な?」
「絶対にイヤだったら」
「三組の水野も田中も乗り気なのに?」
「そいつらと一緒に行って来いよ。で、なんともなかったら教えてくれ。そしたら、俺はハナと一緒に行く」
ハナと呼ばれて、花岡くんはますます頬を膨らませる。そして、吐き捨てるように言った。
「つまんねえ野郎だなー! 臆病者!」
イラッとした、けど。ここで怒りの表情や言葉遣いを見せたら終わりだ。
「そうかもね」
花岡くんは散々に悪態をつきながら、自分の席へと戻って行く。あいつが言ってた『第二校舎の裏山』というのは、いわくつきの山のことだ。
通っていた学校は校区が広くて生徒というと、俺のような代々地元民が祖父母の代から世話になっている者と、新興住宅街から通ってくる者と半々の構成だ。花岡くんは後者だった。
地元民は元々、第二校舎の裏山には近寄らない。
なにか事件があったのかどうか、わからない。考えてみたこともなかった。 ただ、近所のジジババ連中や自分の祖父母が
「行くな」
と言えば、そういうものかと思って受け入れていただけだ。
とはいえ、今までジジババの忠告を無視して『肝試し』と称して裏山に乗り込んでいく人が全くいなかったわけではない。ただ、彼らの後日談というのも一切聞いたことがなかった。
ふと花岡くんの席を見遣ると、一所懸命に周りの同級生を巻き込もうとしている。
「えー、やだぁ」
声を掛けられたひとりの女子が、露骨にイヤな声を出す。
「なんだよ、お前ら! どいつもこいつも!」
花岡くんは明らかに苛立ち、立ち上がって叫んだ。ちょうど、その時に担任が教室に入ってくる。
「ハナ―! うっさい!」
担任の開口一番、男性ならではの野太い叱り声が花岡くんを直撃した。花岡くんは怒鳴られたせいか、不服そうに唇をヘの字に結んで渋々と席に着く。
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