水天一碧

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 心地の良い風が吹いていた。  海風である。潮の匂いがする。見上げれば青天が広がり、それが辺り一面の海原の青さと遥か彼方先で溶け合って曖昧になっている。  水天一碧。数ある四字熟語の中でこれほど美しい言葉が他にあるだろうか。海を水、空を天とするこの(いにしえ)の人の言葉選びのセンス。色を表現する碧という文字には、宝石のような美しい石という意味がある。つまり海と空が一体となって宝石のような美しい青さを放っている状態を表す。それが今まさに目の前に広がっている光景だった。  息を思いきり吸い込んで吐き出してみる。これから新鮮な空気とはしばしのお別れである。気持ちを落ち着かせてからスノーケルを咥えてダイビングマスクを下ろす。  スキューバダイビングは初めてではない。もうインストラクターがいなくても自由に潜れる。  水面下にある別世界。同じ場所に来て、同じように潜ってみてもその表情は毎回違う。出会う魚はもちろん、海底の雰囲気も少しずつ変化していっている。それは潮の流れのせいだろうか。詳しくはわからない。だけど、その変化は陸上よりも顕著だった。  さあ、今日はどんな体験(であい)があるだろう。  彼女は期待を胸に海へと飛び込んだ。 
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