あん時のおっさん

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☆  廻らない寿司屋に連れてこうとする青年を必死で押しとどめ、妥協案として自販機のコーヒーを奢ってもらい、缶を空けながら話を聞いた。  なんでも、サングラスをかけてないと光が眩し過ぎて倒れてしまうという。だが、サングラスしたままでできる仕事が見つからない。困り果てていた時に、あの場面に遭遇した。 「たった一言いっただけで収まってビックリさ。この見た目も使いようか、って」  今、ドラッグストアで夜勤してるという。店長が彼の病気に理解があり、女性店員に絡むクレーマー応対を引き受けている。 「絡まれてたおっさんには悪いけど、おかげで道が開けたっつーか。ホントありがとうな!」 「いや、こちらこそ……」  以来、なぜか私が仕事に疲れきった時に、ひょっこり会うようになった。  無事、レジで支払いを終える。青年に軽く礼を言い、その場を離れた。  遺書を書こうとした便箋だが、もう使う気が失せてしまった。まあいい。そのうち使う機会もあるだろう。  ふと振り返り、青年の会計が目に入った。  買っているのは、絵葉書だった。「引っ越します」の。
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