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小さい頃、父が5才上の兄に剣術を教えている姿を優之進は縁側に座って見ていた。
兄は、よく優之進と2人きりになると、
「剣術は嫌いだ」
と話していた。
でも、優之進は動きの美しさに魅了され、見たことを覚えておいて、部屋で動きを真似し、庭に落ちていた太めの棒を夜遅くまで振っているうちに基本はほとんど覚え、自分のやりやすいように少しずつ形を変えていった。
「優之進もやってみるか?」
と父が、兄と剣術の稽古を始める前に聞かれたので、
「はい、父上」
と優之進は返事をし、縁側から庭に降りた。
父から竹刀を渡された時、今まで感じたことのない力を体中に感じた。
「兄上と対峙してみなさい」
と言われたので、竹刀を持った兄の前に立ち、深く頭を下げて、竹刀を中段に構えた。
兄も中段に竹刀を構え、すぐ打ちかかってきた。
その時、兄の動きがとてもゆっくりに見えて、頭を狙って打ってきているのが分かった。
優之進は、右側に体を移動させて兄の攻撃をかわし、兄の竹刀めがけて竹刀を振り下ろした。
「ぱーん」
という音とともに兄の持っていた竹刀は地面に落ちた。
父と兄は、何が起こったのか理解出来ず、びっくりした顔をしていた。
「優之進、誰に剣術を習った?」
と父に聞かれたので、
「父上が、兄上に稽古しているのを見て、毎日部屋で棒を振っていました」
と優之進が答えると、
「そうか」
と父は短く言ってから、
「父と立ち合ってみよ」
と言って、地面に落ちている竹刀を拾った。
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