外来種

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 その時、私の緊張とはまるで真逆の、弛緩した仕草でまさみさんがソレに手を振った。 「こんにちは、ニホンカモシカさん」  体の力が抜けて跪きそうになった。そこにいたのはニホンカモシカ。角がないところを見るとメス、あるいはまだ子供なのだろう。  一度こちらを見たかと思ったら、また頭を前に戻してゆっくりと動き始めた。まるで私たちの存在など意に介さないかのように。 「ここは野生動物のホームグラウンドだってことを忘れていたわ。一旦戻って、ラジオ持参で出直した方が良さそうね」  まさみさんのその一言で私は我に返った。言われてみればここは人里離れた山の中、鹿もいれば猿だっている。何よりこれが熊だったらと思うと一気に血の気が引いた。 「あ、でもそれならスマホで音楽でも掛けながら‥‥‥」 「ゆきこさん、いざという時に電池切れになったら困るでしょ」  因みにここでいうラジオや音楽というのは、熊除け鈴と同じで、何かしらの音を出していれば動物の方からこちらを避けてくれるという理屈からの事。  なんにしても、熊に追いかけられるという事にならなくて良かったと胸をなでおろしていたら、突然まさみさんがこちらに向かって走ってきた。
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