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こうしてタロウは卑屈に捻くれた
海に囲まれた小さな島国。
ニッポーン国の王子として産まれたタロウは、育つにつれ見た目も頭も取り立てて褒める箇所のない至って平凡、凡庸な男として周囲に評価されていた。
それも仕方のないことだ。
同時に生を受けたタロウの双子の弟ジローの方が、タロウより容姿も頭も飛び抜けて素晴らしかったのだから。
同じ肩書きに同じ歳。
住まいも同じく学ぶことも一緒な2人は、産まれた瞬間から否応なく他者から比較され続ける運命にあった。
まだジローが兄ならタロウの心は救われただろう。兄が家を継ぐと決まっているニッポーン国において、いくら双子と言えど兄は兄。
タロウの不出来は国内で不穏な空気を撒き散らした。
ジロー様の方が王位に相応しい。
歳が同じならジロー様でもいいじゃないか。
臣下の言葉は日々増えていく。
なぜお前は出来ない。
長兄の意地はないのか。
父の鼓舞する声は苛立ちが交じる。
こちらに来なさい。
傍に寄りなさい。
母が微笑むのはいつだって双子のうちジローだけだった。
臣下も両親もタロウを疎む。
兄というだけで弟より優れたものがないタロウは、与えられた課題に精一杯取り組むしか道はない。
頑張ればきっと大丈夫。
努力は報われる。
毎日がしんどくても、陰口に悩まされても、兄として将来国を率いる王と定められたなら、周囲を黙らせるだけの実力を示せばいい。
単純にもタロウはそう思ったのだ。
しかし想いだけで上手くいくなら誰だって苦労はすまい。
歳を重ねるたび大きくなる頭の出来は、もはや埋めようもないほど差がついていた。
タロウの良いところはそこで腐らなかったことだろう。
兄の矜持か民の為か。
ジローとは違う形で己の価値を剣に見出したのだ。
この方向性の転換は周囲にも自分にも良い影響をもたらした。
頭より身体を動かすことがタロウの性に合ったようで、あっという間に国一番の使い手として確固たる地位を築くことに成功する。
父も母も臣下もタロウを称えた。
ようやく楽に息が出来る環境が出来たと安堵した矢先、天才は凡人の努力をあっさりと覆すことを痛感する。
ジローには剣の才能もあったのだ。
兄の強さに興味を持ったジローは、短期間の訓練で負けなしのタロウを打ち負かしてみせた。
ジローに悪気はない。
タロウを兄として慕っていたし、王座が欲しかったわけでもない。
ただ純粋にしたいことをしただけ。
自分がどこまでやれるか試したかっただけなのだ。
こうしてタロウが必死で築き上げた地位は、悪意のないジローにより奪われた。
否、周囲が天才を放置出来なかったのが正解かもしれない。
タロウに向いていた目はまたもや消えた。
消え去ってしまった。
唯一を取り上げられたタロウに居場所なんてないし、これからまた作れるとも思えなかった。
もうどうだっていい。
明日なんて来なければいい。
将来の王も、この国も、自分を認めない全てに初めて背を向けた。
諦めと見限り。
悲しみや悔しさは当の昔に擦り切れている。
その日の夜、タロウはひっそりと国を出奔した。
長い長い、卑屈で無気力な行く宛のない放浪生活の始まりである。
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