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こうしてジョアンナはやさぐれた
ジョアンナはホーリー侯爵家の次女である。
8歳の時に貴族の娘らしく親の決めた相手、同い年だった伯爵家の嫡男ポールと婚約した。
政略でも箱入りで異性に免疫のない夢見がちな少女ジョアンナは、金髪碧眼という絵に描いた王子様の登場に瞬く間に恋をする。
2人の仲は順調。
婚約も2年が経過し、このまま問題なく進むかに思われた。
しかし、運命とは残酷なもので。
学園の休暇で帰省していたジョアンナの姉スーザンに、美貌と名高いスーザンを初めて目にしたポールは、あろうことかジョアンナの横に立ちながら姉のスーザンに一目惚れしてしまったのだ。
ポールの目に篭る熱情。
自分には向けられたことのない眼差し。
婚約者の心変わりを目の当たりにしたジョアンナは、泣く泣く、けれど大好きなポールの為に涙を呑んで身を引いた。
僅か2年。
されど初恋に身を焦がした2年の結末は、ジョアンナの心に大きな傷を残すことになる。
その傷を抱えたままジョアンナは15でデヴュタントを迎えた。
初めての大きな社交場。
学園を卒業して大人の仲間入りを果たす場は、傷心のジョアンナにも煌びやかで光輝いて見えた。
父のエスコート。
ポールと迎えるはずだったデヴュタント。
まだ傷は疼くけど、大人になったからには心を一新したい。
そんな決意を新たにしたジョアンナに、1人の男性が熱心にアプローチをかけてきた。
男性の名はハルベルト。
元婚約者ポールの従兄弟で、ジョアンナの身に起きた悲劇を知る人物。
ハルベルトは言った。
ジョアンナ、私は貴女を裏切らない、と。
一途で真摯な言葉。
かつて見たことのある眼差し。
それらは選ばれなかったジョアンナの傷を多いに癒し、慰めた。
もう一度恋をしよう。してみよう。
痛みを知るハルベルトとなら出来ると思ったジョアンナは、2度目の婚約をした。
しかし、願いも虚しくハルベルトもまたポールと同じだったようで。
婚約者同士の交流でホーリー邸を訪れたハルベルトは、天真爛漫で無邪気な妖精姫と呼ばれるジョアンナの妹、可愛く可憐な美少女ナンシーを見初めてしまったのだ。
またか。
またなのか。
以前と似た状況に乾いた笑みが漏れる。
身内である姉や妹に非は一切ないことは承知していた。
姉妹より容姿の劣ることも自覚していた。
この悲劇も……経験があった。
それだけに、すまないと、頭を下げるハルベルトへの恋心をジョアンナは手放した。
2度の婚約解消から5年後。
職業婦人として医療の道に進んだジョアンナは、危険な戦場の場で看護士として働いていた。
姉妹が悪くないのは分かっていても、元婚約者と結婚した2人を素直に祝福するのは無理だったのだ。
逃げるように領地から出たジョアンナは、明日も知れないこの戦場の地で、ある運命的な出会いを果たす。
ジョアンナより一回りほど歳の離れた騎士団長、公爵家の三男ソリュージュである。
騎士と看護士は戦場において切っても切れない仲だ。互いの身を守るパートナーのようなもので、吊り橋効果も相まって2人の仲は急速に深まっていく。
が、ジョアンナは騎士という職業を理解していなかった。生粋の令嬢たるジョアンナに戦地で昂る騎士の慰め方など知るわけがない。
貞操観念のあるジョアンナはソリュージュの求めに応じることが出来ず、結果ソリュージュを同僚の女性に寝取られて2人の仲は終わった。
もういい。
もうどうだっていい。
恋に敗れまくったジョアンナはやさぐれた。
自分も、自分を選ばなかった男達も、傷が増えるだけのこの国も、全部が全部どうでもよくなっていた。
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