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「紬生様。少々お時間よろしいでしょうか」
その日の夜。
絹恵さんに呼ばれたのは、部屋で授業の復習をしていた時だった。
戸を開けるとどこか思い詰めたような表情で絹恵さんが立っていて、私は不思議に思いながら引き入れる。
「何かあったんですか」
「――こちらが、今朝届いたそうで」
そう言って彼女が差し出したのは、一通の手紙。
私にわざわざ見せてくれるということは私宛てなのだろう。
けれど私にはそもそも、今住んでいるこの屋敷の住所を教えている友人なんていない。
詩織には会話の中で教えたかもしれないけれど、でもこちらはメールでやり取りできるはず。
表の宛先を確かめると、確かに中央には私の名前が書かれていた。
やや右肩上がりの流麗な字。
ざわりと嫌な予感が掻き立てられる。
胸を覆うもやもやが濃くなるままに、手紙を裏返して――差出人の名前に、私は凍りつく。
『小花衣 真由美』。
私の義母の名前だ。
「紬生様」
空気が喉に貼りつく。
血の気を失いかける私の姿を見て、絹恵さんはますます心配そうにうつむく。
「やはりこちらは私が処理をしてしまいま――」
「見せて、ください」
言葉を遮られた彼女は、え、と目を見開く。
私の口から飛び出たのは、自分でも驚くほど、かたい声だった。
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