2―1

4/8
85人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
「そうか。じゃあ空けておいてくれ」 「う、うん……?」  私が頷くのを確認すると、何か企みを隠した表情でスープに口をつける燈矢。  ……ええっ?  何かは教えてくれないの?  てっきり相談事か何かかと思っていたけど、表情から察するにどうもそういう類ではなさそう。  となると、私にはもう心当たりがないんだけどなぁ。  私がよっぽど消化不良な顔をしていたのか、燈矢がちょっと吹きながら笑う。 「そんなに怯えなくても、いずれ今日のうちにはわかる。お前はただ安心して学校に行って、帰ってくればいい」 「そ、そう?」  そうは言われても、内緒にされればやっぱり気になっちゃう。  もしかして、とか色々想像してみるけれど、どれも今ひとつでぴんとこない。  一人悶々としながら私もスープを口にする。  そうこうしているうちに、先に食事を済ませた燈矢はおもむろに席を立った。  まあ、燈矢があの笑みを浮かべていたんだから、きっと楽しいことに違いないよね。  燈矢の言う通り、放課後を楽しみにして学校に行こう。    私もそろそろ準備しなきゃ、と立ち上がりかけたその時。  仕事の支度をしに行ったはずの燈矢が、「ああ、忘れていた」と部屋に戻ってきて。  きょとんと首を傾げる私にすばやく近づくと、そっと耳に置土産を落としていった。 「今日のスープも美味かった。放課後、期待してろ」  耳に吹き込むだけ吹き込んでいった燈矢は、私の顔を確かめると今度こそ上機嫌で去っていく。  残された私は、さっきまでの平常心はどこへやら。  たったこの一瞬で、心臓が最大音量で騒ぎ始めたのだった。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!