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「そうか。じゃあ空けておいてくれ」
「う、うん……?」
私が頷くのを確認すると、何か企みを隠した表情でスープに口をつける燈矢。
……ええっ?
何かは教えてくれないの?
てっきり相談事か何かかと思っていたけど、表情から察するにどうもそういう類ではなさそう。
となると、私にはもう心当たりがないんだけどなぁ。
私がよっぽど消化不良な顔をしていたのか、燈矢がちょっと吹きながら笑う。
「そんなに怯えなくても、いずれ今日のうちにはわかる。お前はただ安心して学校に行って、帰ってくればいい」
「そ、そう?」
そうは言われても、内緒にされればやっぱり気になっちゃう。
もしかして、とか色々想像してみるけれど、どれも今ひとつでぴんとこない。
一人悶々としながら私もスープを口にする。
そうこうしているうちに、先に食事を済ませた燈矢はおもむろに席を立った。
まあ、燈矢があの笑みを浮かべていたんだから、きっと楽しいことに違いないよね。
燈矢の言う通り、放課後を楽しみにして学校に行こう。
私もそろそろ準備しなきゃ、と立ち上がりかけたその時。
仕事の支度をしに行ったはずの燈矢が、「ああ、忘れていた」と部屋に戻ってきて。
きょとんと首を傾げる私にすばやく近づくと、そっと耳に置土産を落としていった。
「今日のスープも美味かった。放課後、期待してろ」
耳に吹き込むだけ吹き込んでいった燈矢は、私の顔を確かめると今度こそ上機嫌で去っていく。
残された私は、さっきまでの平常心はどこへやら。
たったこの一瞬で、心臓が最大音量で騒ぎ始めたのだった。
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