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いつもは真面目に聴くようにしている古文の時間も、休憩時間さえも、私の頭の中はある一つのことに支配されている。
コックさん特製おかずを詰め込んだお弁当を脳死状態で口に運んでいたら、ついに詩織から得意の毒舌が飛んできた。
「急にどうしたのよ紬生。あからさますぎ。転校生と喧嘩でもしてたの?顔見知り?」
「…………ええと……実は」
詩織にはある程度お義母さんとの折り合いがついたことを話してあるので、ここで打ち明けてしまっても特別問題はないだろう。たぶん。
それよりも一人でこの真実を抱え続ける方が不安で、私は背後を絶対に振り返らないよう気を張りながら小声で話す。
「燈矢の友人の、斗鬼さんっているじゃない?」
「……あー、街中でぶつかったっていう、イケメンお兄さんのことね」
「そう。その人と一緒にいた子が、あの子なの」
詩織の記憶の仕方には触れずにおくとして。
だいたい読めた、と詩織の同情するような目を受け止めつつ、私は音にならないため息をこぼす。
現在進行形で後ろから注がれ続けている彼女の視線が、そろそろ私の背中を貫通しそうで非常に怖い。
「ってことはあんたの旦那と同じ、あやかしってこと?鬼城さんは」
「たぶんそう。『鬼』って名字に入ってるし、斗鬼さんのいる不死川家の一派で間違いないと思う」
一派ねぇ、と感心するような声を漏らした詩織は、そのままあくまで自然を装って私の背後を見たもよう。
「恨まれるようなことでもしたんじゃないの?食べ物つまみ食いしたとか」
「いやいやいや」
「食べ物の恨みは怖いよー」
そう言いながらサンドイッチを頬張る詩織は、眼鏡の奥で何かを考えているそぶりを見せる。
だけどそれを私に教えるつもりはないらしく、「昨日妹が、私がとっておいたプリン食べててさぁ」と別の話題に変えだした。
結構本気で憤りになられている学級委員長をなだめつつ、私は後ろの会話に耳をそばだてる。
「大阪弁とか話さないの?」
「……標準語の方が、礼儀正しいでしょう」
そうかな?大阪弁可愛いと思うんだけどなぁ、と女子たちが首を傾げ合うも、鬼城さんはあくまでクール。
というかさっきから、何をきかれようと全部に真顔で答えている。
「面白くなりそうね」
「……こっちを見ないでもらって……」
詩織が再び私を見てにやっとするものだから、私は本気で頭を抱えたくなってくる。
「鬼城さん、もうこっちには慣れた?」
「東京はやっぱり新鮮だったりする?」
女子たちが周囲を取り囲んでいるけれど、彼女の存在感の方が勝っているせいか自然と埋もれていない。
復帰したての時の私と状況は同じはずなのに、悲しいかな、彼女のは本物の漫画のワンシーンのように映る……。
と、変なところに尊敬していた時だ。
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