2―1

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「少しよろしいですか」 「……へっ?わ、私、ですか……?」  突然背後から呼びかけられて、思わず声が裏返る。相手につられて敬語にもなってしまった。  鬼城さんと向き合うと、彼女の方が背が高くてスタイルが良いから、何だか萎縮してしまいそうだ。  というか、すでに萎縮している。 「え、ええと……?」 「ついてきていただけますか」    ちら、と視線を後ろへやった彼女に、私はこくこくと頷いて同意を示した。  ここはあまりに人目が多すぎる。  つまり、人に聞かれたくないこと――例えば五大妖家に関わること――について話したいってことじゃないか、と。  察した私は、詩織に目で「行ってくる」と伝えてから鬼城さんと一緒に教室を出る。  互いに言葉を交わさぬまま二人で向かったのは、昼休み中で人気(ひとけ)のない空き教室。  戸を閉めてすぐに、彼女が話を始めだす。 「確認失礼いたします。――あなたは『狐月院 紬生』で間違いありませんね」 「えっと。はい、そうです……?」 「そうですか」  次の瞬間、彼女の丁寧な口調が一変する。 「単刀直入に言うわ。あなた、燈矢様と結婚してるのよね?伴侶(ツインレイ)なのよね?」 「……え?」 「まさか斗鬼と何かあったりしないわよね!」  その美人姿で迫られると色んな意味で心臓がもたなそうなので是非とも控えていただきたい、とは到底言える空気じゃない。  どこか焦っているようにも捉えられる彼女の表情とその言葉に、私は「……あ」と一つぴんときて。  特に深く考えず、思いついたことを口にした。 「あ、ええと。もしかして、鬼城さんは斗鬼さんの伴侶(ツインレイ)なんですか?」 「――は?」 「私は全然奪うつもりなんてないですっ。燈矢が、いるから」    私の言葉を聞いてあからさまに「は?」と眉根を寄せる鬼城さん。怖さと美しさが共存している。  勢いを削がれたのか、彼女は深いため息を一つ吐くと一歩こちらに距離を詰めた。
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