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「で、後先考えずに会う約束をこじつけたと」
「うっ……は、反省はしてるよ」
鬼城さんとお昼休みに話した後、残りの授業を燃え尽きたように過ごし、やっと今。
ことの経緯をすべてを話した後、詩織の正確すぎる要約に、わかってはいたけれど改めてクリティカルダメージを食らった。
だけど、彼女――鬼城さんのことを見過ごせなかったのは事実。
大好きな人と引き離されてしまうかもしれない、という不安で押しつぶされそうになっていた彼女の瞳。
だって、そうだ。
人間とは違うけれど、あやかしたちにだって心はある。
世界中にたった一人しかいない伴侶が、自分の大好きな人の伴侶が、もし自分ではなかったら――。
愛する人の伴侶として生まれてこれる確率は、いったいどれくらいなのだろう。
普段から愛する人のそばに仕えている鬼城さんなら、その不安はなおさらだと思う。
出会えばすぐに伴侶だとわかるなら、彼女はきっと、斗鬼さんの唯一……ではないから。
そう思ったら何だか放っておけなくて、気づけば同盟だなんて変なことを口にしてしまっていた……。
「まだ見ぬ誰かに、大切な人の心を奪われるかもしれない……って、そんな不安を抱えたような表情だった」
「あやかしもあやかしで大変ってことか」
ま、言い出しっぺはあんただし頑張ってきな、と詩織が言って、ようやく二人して放課後の教室をあとにする。
いつも通り校門で詩織と別れ、少し行った先にある駐車場に早足で駆け寄った。
いけない。運転手さんを待たせてしまった。
慌てて入ってきた私に、嫌な顔一つせず柔らかい笑顔の運転手さん。
「紬生様、本日はご友人とごゆっくりできたようですね」
「は、はい……っ。すみません、いつもお待たせしてしまって」
「いえいえ良いのですよ。紬生様が楽しそうにしておられると、私たちも笑顔になりますから」
運転手さんはそう言いながらニコニコと車を出す。
対する私は運転手さんに頭が上がらない。
改めて思うと、燈矢のお屋敷の方たちは皆、私に甘すぎるような……。
そんなことを思いながら、私は鬼城さんと約束した次の休みの日の予定について計画していた。
そうしているうちに、ふと窓の外へ視線をやって、ぎょっとする。
「あ、あれっ。運転手さん、家へ帰るんじゃ……」
「おや、紬生様。本日はこの後、坊ちゃんとデートの予定では」
「デッ…………ああっ!」
おやおや、と運転手さんの微笑ましげな笑みを気にしている場合ではない。
彼の言葉で今朝の燈矢とのやりとりをすべて思い出した私は、瞬間ぼんっと発火する。
や……ばい。今の今ままですっかり忘れていた。
確かに今朝、「放課後予定を空けておけ」と直接言われていたのだった。
途端に意識してしまい、広い後部座席で一人、悶々と悶える。
というか、絶対「デートのこと忘れてた」だなんて言えない……。
いえ、いやこれは決して忘れてたわけじゃなくて。忘れようとしてた、だからっ。
今朝のキ、キキキ、キスもそうだったけど……っ。
燈矢が「誠実に私と向き合う」宣言をした後ぐらいから、すごく積極的になったというか。
私がそういうことに耐性がないせいもあるんだろうけど、でも燈矢のいたずらは何回食らっても慣れない。
結局車が停車した時には、見事私の頭はすでにパンク状態だった。
車を降りると、そこは何やら高級感溢れるショップ。
と、その店の中から、スーツの燈矢が出てきた。
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