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エルージュから来たスープ屋は、あっという間に口コミで広がりました。まだそれを私たちは知りません、でも金額が物語っています。
明日はもっと忙しくなります。
教会の子たちもダニエルさんもグッドマンさんもお疲れさまでした。
「飯だぞ」
「おなかすいたー」
「皆さんもどうぞ」
「はー、疲れたー」
「わ、私もです、明日は応援を頼まなくては」
「よろしくお願いしますね」
それじゃあみんなそろった。
「はい」
「手は洗った」
洗ったよ。
私たちは、まだ。
「はい、お手拭き、きれいに拭いてね」
「それでは、今日の糧に感謝して、いただきます!」
いただきます!
うめー!
がつ、がつ。
落ち着いて食えよ!
こいつ本当に六級かよ!
なんて楽しい食事でした。
「ここ?」
「うん、ヒロ、入るぞ」
モーラか、いいにおいがする。
そうだろ、起きれるか?
うん。
薄暗い部屋、その奥にあるベッドに寝ている子。
空気が悪いな。
「初めまして、きょうからお世話になります、ルシアンです」
「ヒロだよ、よろしく」
ベッドに横になっている子はセルぐらいの青年でした。
「ヒロ、よろしく」
頭を下げた。ごほん、ごほんとつらそうな咳です。
風邪かな?
なにそれ?
ちょっといいかな?
うん。
おでこの手を当て、首の後ろに手を当てます。
いつから調子が悪いの?
四日ぐらい前、熱が出て。
今は咳だけ?
うん、でもふらふらするから。
熱はないようだけど、ちょっと顎の下が腫れている。
口を開けてもらいました。あーというと扁桃腺が腫れているからまだ熱がある。
せきはごほごほ、風邪の可能性が高いな。
「まずはおかゆ、これを食べてから薬を飲みましょ」
「おかゆ?」
「スゲーうまいんだぜ、卵が入ってるんだ。ほら、スプーン、熱いからな、フーフーして」
「はは、懐かしい、これと似たようなの食べたことがあるよ」
え?ねえ、それどこで?
北の国、戦争をしている国さ。
「もしかして、そのおかゆ、作った人覚えてる?」
黒い長い髪の異国の女の人、言葉もわからなくて、でもあの時食べさせてくれたものはどれもおいしかった、ただ、あの時教えてもらったドーナツは…もう、作れない。
ああこの子だ。
「ヒロ、あれから四年たったのね」
私は頭に巻いていた布を取りました。
「黒髪」と言ったのは、モーラでした。声も変わっていたし、顔つきも変わっていてわからなかった、あの時助けてくれてありがとう、髪、こんなに短くなったけど、私、あなたに助けてもらって、ドーナツを教えたのは私。
え?
お椀を落としそうになったのをキャッチしたその子は、手を伸ばしてきた。
「あの時、俺は、あんたに着いて行くべきだったんだ」
「会えてうれしい、生きててありがとう」
しばらくヒロと抱き合っていた。
食べろ、冷めちまう。
うん。
食べて、薬を飲んで横になりました。
明日、部屋を移ろう、ここは空気が悪い。
うん。
さっき、ドーナツができなくなったって言ってたけど。
ヒロは、一緒に入ってきた子を見ました。
「ア~あの時にいた子だ」
マルコとセル。そっかいっしょにと言って言葉を詰まらせました。
「ごめん、片付けてもらえる?」
ああいいよ、みんなも宿へ、部屋ができたら、こっちね。
おう、じゃあな。
出ていく二人を見ていた。
俺達は、ルシアンと分かれてすぐ、近くにいた大人に捕まって、さっき聞いたことを教えないと、こいつらがどうなってもいいのかと言われて、しぶしぶそいつらに教えたんだ。そしてここへ来て、商売を始めたんだけど、また奴らにつかまって、同じものをするなと言われて、一人は殺され、もう一人の女の子は人質にとられて。
「人質?その子、生きてるの?」
「うん、なんとか、でも助けたいんだ」
「君はあの時と同じで、勇敢だね」
「そんなんじゃない、生きるためだ」
「そうね、私も生きるのに必死だったもの」
「戦争がみんな悪いんだ」
そうね。
そして彼は今までの話をしてくれた。
苦しくて、それでも生き抜こうと思ったのは、死んだ仲間が俺の代わりに妹を助けてくれと言ったことだけ、いつか救い出したい、それだけで生きてきた。十歳の子が生きていく、一人じゃ怖いから仲間ができた、それが今ここにいる子たちだという。
ダニエルは人がいいからな、つけこんでしまったというがそれでいいと思う。
とにかく病気をしっかり治して、食べ物を扱っているから、ちゃんと直してからじゃないと仕事はさせない。
でも。
店の話をした、そしてスープ屋の話をしたら、やっぱりそうだったんだと彼は言った、あの時食べた味が忘れられなくて、でもうまくいかなくてという。
ちゃんと教えるは、スープ屋三号店として、店を引き継いでくれると嬉しいな。
うん、と超笑顔。そして、私たちはここへ腰を落ち着けることにしたのです。
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