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つかず離れず、一定の距離を保ったまま、その影は海の方へと向かって逃げているようだった。きみはたしかに悪いが、この夢は不可思議なことばかり起こる夢だ。
(……乗りかかった船?)
古い慣用句を思い浮かべながら、影を追う。
町を抜ければ、今日この夢の世界に降り立った海岸へとたどり着く。そこでようやく、影の正体が見えた。
街に背を向け、海を眺めているのは一人の少女だった。銀髪が海風になびく。ノースリーブのワンピースからは細く白い手足がすらりと伸びており、ひどく華奢に見えた。
この夢の世界に来て、初めて出会う生きた存在だった。おそらく、この少女が夢の宿主なのだろう。
彼女の顔を見ようと、アスカは一歩踏み出そうとした。夢渡りであるアスカの存在は、夢の宿主を始めとした夢の住人には察知できない。何かをするには自分が動き回る必要がある。
そうして一歩踏み出したのと、少女がゆっくりと振り返ったのはほとんど同じタイミングだった。
深くもきらめく赤い双眸が、アスカを捉えた。
「はじめまして。……こんにちは!」
少女は、アスカに向けてそう笑いかけたのだった。
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