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第二章
アスカはベッドから跳ね起きた。心臓の鼓動がうるさく、吐く息もいささか荒い。あたりは暗く、まだ夜が明けていないのがわかった。
『どうしましたか? 起床時間は三時間後ですが』
部屋の主の異変に、管理AIが小さな声で問うてくる。その声音で、少し平静を装うだけの頭が戻ってくる。
「……何でもない。ちょっと……夢見が悪かったんだ」
この回答は、実際間違ってはいない。少しばかりピントはズレているかもしれないが。
流しへ向かい、ボタンをひとつ押せば冷えた水がコップに注がれて出される。一気にそれを飲み干した。知れず、ため息がこぼれた。
初めてだった。夢の中に住む住人と目が合うことなど。
あまつさえ話しかけられすらした先程のできごとは、アスカにとっては事件以外の何でもなかった。
決して悟られない場所から、他人の見ている夢を体験する。それを極上の遊びとして享受してきたアスカにとって、自分を捉えられることはある種ホラーに近かった。あまりの衝撃に目が覚めてしまったのはそのせいである。
流しからベッドへ戻った。身体を横たえるが、とても眠る気にはなれなかった。
眠ればあの夢の漂着場へとたどり着くのだ。驚いて跳ね起きた手前、少しあの場所とは距離を置きたい。
今までは夢の泡の中で繰り広げられている物語が、漂着場の外まで流れ出して来ることはなかった。きっと、あの広大な海と森の夢に入らなければ大丈夫だろう、とも思う。
とはいえ、ここまでイレギュラーなことが多すぎた。少し、整理をしたい。
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