序章

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序章

 役目を終えたカラの船は、どこか棺のように見えた。  幼少教育プログラムには、年に三度の「社会科見学」が組み込まれている。そのひとつが、これまでの人類が歩んできた歴史を学ぶ「遺物博物館」の見学である。  少年――アスカはこの社会科見学で初めてこの施設にやってきた。正直なところ、歴史に興味もなかったし連れてこられた意味もよく分かっていなかった。  とても古いものがたくさんおいてある場所、それ以上でもそれ以下でもなかった。印象がそれ以上変わることは多分ないだろう。そんな、齢七歳にしてはいささか達観しすぎた子どもだった。  館内案内を担当する自動人形(アンドロイド)が、流暢な言葉で展示されている遺物の説明を続けていくが、連れてこられた子どもたちの中で真面目に見学しているのは一握りほどである。誰もいないことをいいことに駆け出していこうとする者――これは案内自動人形に取り押さえられた――仲のいい友人とおしゃべりを続ける者、と反応は様々である。  最奥に展示されていたのは、かつて地球に住んでいた人類がこの惑星に移り住む際に使ったと言われる旧時代の宇宙船だった。この船に乗ってきた彼らは「開祖」と呼ばれ、この惑星を人が住む星に変えたのだという。  自動人形の説明を聞きながら、アスカはその大きなカラの船を見上げた。  この船にまつわる出来事が、彼の運命を変えることを、彼はまだ知らない。 
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