Ⅰ.人の子を拾った

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Ⅰ.人の子を拾った

   千明。  それが4歳の子供の名前だ。  ここは人間が滅んで二百年の魔族だけになった世界。  そんな世界で拾った東洋人の子供は驚いた様子で目の前の真っ黒な格好をした魔女を下から見つめている。 「おねぇちゃん、ここは何処?」    ここは魔物の住む森だと言うと子供は丸々とした目を更に丸くする。 「お前は何処から来たんだ?」  魔女はそう聞くと家にいて寝ていて目が覚めたらここに居たと答える。  東京と言う聞いたことの無い地名が子供の住んでいる場所だと言った。  母親は男と出ていったきり何日も帰って来ない。  何日も着ている薄汚れた服。きっと捨てられたのにすら彼は気付いていないのだろう。 「着いておいで。ここに居たいなら別にいいけど」  その時は魔物に食われる事を伝えると素直についてきた。  人間の子供を家に招き入れたのは単なる気まぐれだ。    柔肌の人間の子供の肉は確かに美味だが、絶滅危惧種の人間を食べようだなんて馬鹿な真似はしない。  小間使い程度に使ってやろうと魔女は思った。 ---------- 「お前は捨てられた子だよ」  真っ黒な格好をした女の人にそんな事を突然言われた。  母親とは男と出ていったのを最後にあっていない。  食べ物もなくてゴミ袋の中にあったコンビニ弁当のカスと水道の水で飢えを凌いだが、お腹が痛くなりゲロと下痢を繰り返した。  身体が動かなくなって苦しくて段々と目の前か真っ白になった。  目が覚めれば森の中にいて真っ黒な女の人がいた。 「お前、名前は?」  落ち着いた優しい声に千明と名乗った。  着いて行った家には温かいスープと柔らかなパンを頂いた。  どのくらいぶりたろうか、まともな物を口に放り込んだのは。 「そんなに美味かったかい?」  魔女はボロボロ涙を零し泣きながらパンをほうばる子供に小さく笑いかけた。 ---------  日頃から暴力を振るわれていたのだろう。子供の服を脱がせれば体中痣だらけだった。 「そんなに叩いても美味しくなるわけでもないのに」  そんな冗談を言いつつ魔女は子供を風呂に入れて自ら調合した薬を塗ってあげた。 「お前は私が育ててやるよ」  気まぐれだとしてもせっかく拾ってあげたのだ。少しは使える様にしてやろうと魔女は言う。  その日から子供は魔女の召使いとなった。
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