幼馴染みとの契約交際が溺愛必須に変更されました。

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「さっき観た展示の話だよ。影絵って子供向けのしか見たことなかったけど、あんなすごい作品にもなるんだな」 「あ、そうでしょ? 影絵の細かさもすごいけど、色使いも独特で印象的だったでしょ」 「わかる。色数は多くないけど光を通したら鮮やかだったよな」  打てば響くように返ってくる会話は、間違いなく楽しい。そういえば子供の頃から、倫之は空気を読むのが得意で、そういう意味では頭の回転が速かった。だからこそ、地道な努力が成績アップにも結びついたのだろう。  ──どうして今、こんなふうに過ごしているんだろう。  まるで普通のカップルみたいに。  そんな思いが、ちらちらと頭をよぎる。  同窓会で見せるため限定の、お芝居だったはず。  なのに、練習と慣れのために何度かしていたデートは、今でも続いていて。  おまけに私の知らない間に、ご両親に報告までされている。実家に電話したついでにそういう話になった、などと倫之は言っていたけど、そんな話をすれば私の親にも伝わることは予想がついたはずだ。そもそも、本当の交際でもないのに、なぜ自分の親に話したりしたのか。  考えれば考えるほど、倫之がどういうつもりでいるのか、皆目わからない。  そのくせ、私はこいつに、それについて尋ねることができないでいる。  理由はわかっている──怖いからだ。  わざわざ尋ねて、お芝居である事実を再確認して、じゃあそろそろやめようか、というふうに言われるのが。  ……どうして、そう言われるのが怖いのか。  その理由も、本当はとっくにわかっている──わかっていて、知らないふりをしているのだ。  話が一段落して、ついまた黙ってしまった私に、倫之が首をかしげる。 「今日、元気なくない?」 「え?」 「なんかしょっちゅうぼーっとしてる感じ。寝不足か?」 「そ、そんなことない。ゆうべはぐっすり寝た」  じゃあ何、という表情で、じっと顔を見られる。  その視線を普通に受け止められなくて、目をそらす。  ……いつからか、こいつにじっと見られることが、落ち着かなくなっていた。その、どうしてか真っ直ぐすぎる目を、向けられているとひどくそわそわして──ドキドキする。  片想いの相手と目が合って慌てる中学生か高校生みたいだ、と感じたその時に、本当は気持ちの変化に気づいていた。  私は倫之が好きなのだ。
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