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いまだに彼氏らしく振る舞おうとしてくれている、彼が。
けれどこんな気持ちを打ち明けたら、絶対に困らせる。
幼なじみでしかない私に、好きだなんて言われても、戸惑うだけだろう。それこそ中高生ならまだしも、三十過ぎてからそんな告白をするなんて、痛すぎるとしか言い様がない。
わかりすぎるほどにそれがわかるから、気持ちを言うつもりはなかった。
──代わりに、言わなければならないことは。
「気に入らなかったか? さっきの店」
「え? ううん、美味しかったよ。いい店だった」
「じゃあ何で、そんなずっと、浮かない顔してんだよ」
「…………」
「なんか悩みあるなら言えよ。水くさいぞ」
ちょっと怒ったようにも聞こえる声、だけど気遣っているのが伝わる声。
私を心配しているからこそ、少しの苛立ちを感じているのだと、わかってしまう。
そんなふうに思ってもらう──接してもらう資格は本来、私にはないのだ。だから、離れなきゃいけない。
交差点でぴたりと足を止めた私を、不思議そうに振り返った倫之に、切り出した。
「そろそろ、終わりにしましょう」
「──は? 何の話」
「決まってるでしょ、お芝居よ。ほんとならもう、とっくに終わらせてるはずだったんだから」
繋がれた手から、そっと自分の手を引く。
掴まれ直されないように背中に腕を回しながら、けれど目を合わせる勇気はなくてうつむいたまま、続けた。
「いろいろ気遣ってくれてありがとう。でももう、我慢して私に付き合い続けなくていいのよ」
「……我慢?」
「だってそうでしょ。好きでもない私と、毎週デートするなんて。毎回おごってくれてたから、想定予算だいぶオーバーしたんじゃない」
「何言ってんだよおまえ。そんなこと」
「わかってる、そんな気を遣うなって言うんでしょ。でも私は気になるの。あんたのお金も時間も、これ以上無駄にはできない」
「無駄、だって?」
そのつぶやきに傷ついた響きを感じ取って、顔を上げる。
本当に、倫之は、傷ついたような表情をしていた。
思わぬものを見て気持ちが一瞬くじけるも、立て直して、もう一度告げた。決めていた結論を。
「お互いいい年なんだし、次は本当に結婚できる人を見つけましょう。あんたならすぐに見つかるわよ。私も、頑張るから」
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