幼馴染みとの契約交際が溺愛必須に変更されました。

14/23

408人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 タイミングを見計らい、倫之から離れ、走って交差点を渡った。彼は追いかけてこようとしたかもしれないけど、振り返らなかったからわからない。それに、直後に信号が点滅を始めたから、つもりがあったとしても渡れなかっただろう。  そういうタイミングを計って、会話を終えたのだ。  一番近い駅に駆け込み、改札を通って電車に乗ったところで、ようやく息を吐いた。  その拍子に、涙がぽろりと頬をつたった。  電車が目的の駅に着くまで、窓の外を見ながら私は、こみ上げてくる嗚咽を懸命に抑えていた。  着いた駅のトイレで、我慢できずにしばらく泣いて。  泣き止んでもすぐ家に帰る気にはなれなくて、ひとりで居酒屋に入った。あまり空腹は感じなかったけど、適当に注文してぼそぼそと飲んで食べて、時間をつぶした。  そうして自宅のあるマンションに戻ってきたのは、夜十一時に近い頃。  エレベーターを降りて廊下に出たところで、私の部屋の前に立っている人影に気づき、警戒心が湧き起こる。  こんな時間に誰……?  微動だにしない様子は、普通とは思えなかった。  けれどその影が振り返った瞬間、警戒は解けた──代わりに疑問で頭が占められたけど。 「倫之……?」  数時間前に別れを告げたはずだった。  なのにどうして、ここにいるのだろう──まるで私をずっと待っていたみたいに。  どうしようかと思ったけど、引き返すわけにも、足を前に進めないわけにもいかない。  緊張しながら部屋の前にたどり着く。 「──どうしたの。何か、用事でもあった?」  ああ、と倫之が短く応じる。 「そうなんだ、……ここじゃ迷惑になるから、玄関入って」  躊躇しつつも鍵を回して扉を開いた、その刹那。  倫之が私に体当たりして押し込む形で、玄関へ体を滑り込ませた。らしからぬ強引な行動に慌てる間もないうちに、今度は、彼の腕に引き寄せられて閉じ込められる。  抱きしめられているのだとはわかったが、どうしてなのかはわからなかった。 「……我慢してきたよ、ずっと。けどもう我慢しなくていいんだよな」 「え、────」  何の話、と尋ねるより先に、顔が近づく。  抱きしめる腕を解かれないままに、唇が塞がれた。  キスされたのだと認識した直後、舌先で唇を舐められる。驚いて作ってしまった隙間から、すぐさま舌が入り込んできた。 「…………っ、ん……ん、ふ」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

408人が本棚に入れています
本棚に追加