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タイミングを見計らい、倫之から離れ、走って交差点を渡った。彼は追いかけてこようとしたかもしれないけど、振り返らなかったからわからない。それに、直後に信号が点滅を始めたから、つもりがあったとしても渡れなかっただろう。
そういうタイミングを計って、会話を終えたのだ。
一番近い駅に駆け込み、改札を通って電車に乗ったところで、ようやく息を吐いた。
その拍子に、涙がぽろりと頬をつたった。
電車が目的の駅に着くまで、窓の外を見ながら私は、こみ上げてくる嗚咽を懸命に抑えていた。
着いた駅のトイレで、我慢できずにしばらく泣いて。
泣き止んでもすぐ家に帰る気にはなれなくて、ひとりで居酒屋に入った。あまり空腹は感じなかったけど、適当に注文してぼそぼそと飲んで食べて、時間をつぶした。
そうして自宅のあるマンションに戻ってきたのは、夜十一時に近い頃。
エレベーターを降りて廊下に出たところで、私の部屋の前に立っている人影に気づき、警戒心が湧き起こる。
こんな時間に誰……?
微動だにしない様子は、普通とは思えなかった。
けれどその影が振り返った瞬間、警戒は解けた──代わりに疑問で頭が占められたけど。
「倫之……?」
数時間前に別れを告げたはずだった。
なのにどうして、ここにいるのだろう──まるで私をずっと待っていたみたいに。
どうしようかと思ったけど、引き返すわけにも、足を前に進めないわけにもいかない。
緊張しながら部屋の前にたどり着く。
「──どうしたの。何か、用事でもあった?」
ああ、と倫之が短く応じる。
「そうなんだ、……ここじゃ迷惑になるから、玄関入って」
躊躇しつつも鍵を回して扉を開いた、その刹那。
倫之が私に体当たりして押し込む形で、玄関へ体を滑り込ませた。らしからぬ強引な行動に慌てる間もないうちに、今度は、彼の腕に引き寄せられて閉じ込められる。
抱きしめられているのだとはわかったが、どうしてなのかはわからなかった。
「……我慢してきたよ、ずっと。けどもう我慢しなくていいんだよな」
「え、────」
何の話、と尋ねるより先に、顔が近づく。
抱きしめる腕を解かれないままに、唇が塞がれた。
キスされたのだと認識した直後、舌先で唇を舐められる。驚いて作ってしまった隙間から、すぐさま舌が入り込んできた。
「…………っ、ん……ん、ふ」
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