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口内を蹂躙するように動く舌が、自分の舌に絡められる。突然のことに頭がついていかず、息苦しくて声が漏れる。
なぜこんなことをされているのか、本当にわからなかった。
この半年間、一度もしなかったし、される気配もなかったキス。
それを今、貪るようにされている──さっき彼がつぶやいた言葉のごとく、我慢していた糸が切れたかのように。
どのぐらい時間が経ったのか、やっと唇が解放された時、反射的に息を大きく吸ってしまった。
はあ、と呼吸を落ち着かせる間もなく、体が浮いた。
「ひゃっ!?」
いわゆるお姫様抱っこを初めてされて、驚きすぎて変な声が出る。勢いで脱げた靴が転がる玄関から、部屋の奥へと運ばれる。
やけに丁寧にベッドの上に下ろされたかと思うと、次の瞬間には、ベッドに乗り上がってきた倫之に組み敷かれていた。
どういう状況になっているか把握して、ぞくっと体が震える。
起き上がろうとした上半身は、彼の体に阻まれる形でまたベッドに倒された。そのまま押さえつけられるようにして、ふたたび唇を重ねられる。
リップ音と、絡められる舌が立てる唾液の音が耳につく。今まで感じたことのない、倫之の匂いと体温を、この上なく近い距離で否応なく感じさせられていた。
──彼が、男性であることは、理解していたはずだった。
なのに、いま私にのしかかって執拗にキスを続ける倫之は、まるで知らない「男」だった。
「……っふ、う」
長い口づけがようやく終わって、息をついたのも束の間。
彼が私を解放する気がないのを知るのに、時間はかからなかった。
首筋に滑らされた感触に、息を詰める。
「あ、……っ」
かすめるように肌をなぞっていく唇に、時折、ちゅっと音を立てて吸い付かれる。そのたびにぞわぞわとした感覚が、背中を這い上がっていく。
経験がないわけじゃない。けれど、ブランクがあるからなのか、もしくは相手が相手だからなのか──体の奥底を震わせる感覚が、経験したことのないものに感じられて、怖い。
「……っ、や、……やぁっ」
小さく訴えると、私の首筋に顔を埋めたまま、倫之は囁くように言った。
「ほんとに嫌なら、本気で押しのけて」
直後、耳たぶを食まれる。舐めた舌先が、耳の穴に入り込んで円を描くようにねぶった。
「ん……っ、あぁ」
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