幼馴染みとの契約交際が溺愛必須に変更されました。

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「……うん、ちゃんと覚えてる。倫之なら本当にそうしてくれるって、信じてるから」  だから、怖いものなんか何もない。私も子供も、彼なら絶対に守りきってくれるはず。 「だから、私でよければ、よろしくお願いします」  プロポーズの時と同じ返事をすると、倫之はため息をついた。 「違うって言ったろ。由梨じゃないと嫌なんだって、俺は」  顔が近づき、唇がかすかに触れ合う。 「愛してるよ、由梨」 「──私も」  同じ言葉を返そうとした時、扉がノックされ、開いた。  そろそろお時間です、と女性スタッフが声をかけてくる。 「は、はい」  途端に緊張が舞い戻ってきた。ブーケを握りしめた両手を、大きな手のひらが包んで、ゆっくりと立ち上がらされる。 「深呼吸しとくか」  すうっ、と倫之が空気を吸い込むのに合わせて、私も深く吸った。はーっ、と大きく吐いた息が混ざり合う。  そうしてから見上げると、柔らかく微笑んだ倫之と目が合った。不思議なもので、完全にとは言えないまでも、緊張が六割ぐらいは減った気分になる。 「さ、行こう。皆待ってる」  ブーケを持つ側と逆の手を取り、倫之が歩き出す。ドレスの裾に気をつけながら、私も足を進めた。  ……チャペルに続く両開きの扉の前で待ちながら、心の中でこれまでの出来事を、そしてこれからの未来を思った。  今に続く道を歩いてこられたことへの感謝と、この先も幸せが続くようにとの希望。それらを胸に、私は新しい日々に踏み出す。誰より愛している人と、お腹の子供と一緒に。  結婚行進曲が鳴り響き、同時にスタッフによって、扉が開かれた。拍手と参列客の視線が注がれる。  白いバージンロードを、父の腕に手を添えながら、一歩一歩確認するように踏みしめて歩いていく。道の行き止まり、主祭壇の前に立つ、倫之に向かって。                   - 終 -
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