幼馴染みとの契約交際が溺愛必須に変更されました。

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 受付で名前の確認と会費の支払いを終えて、いよいよ会場の宴会用ホールに入る。  ホテルスタッフが開けてくれた扉の向こうには、予想よりもたくさんの人と、高い天井が見えた。  目だけを動かしてみた範囲のみでも、男性はともかく、女性は意外と着飾っている──それこそ、結婚式参加レベルにドレスアップしている人が多いようだ。こんな中でスーツを着て来ていたら、さぞかし地味な印象で埋もれていただろう。  むしろその方が良かったけど……などと考えているうちに、倫之は同級生が集まっているテーブルを見つけたようで、そこへと一直線に歩いて行く。  ちなみにこいつの装いは、海外出張先で店を紹介されて買ったとかいう、オーダーメイドのスーツだ。素人目で見ても既製品とは違う高級感を醸し出しているそれを、何気ない様子で着こなしているのは、さすがと言うべきか。 「あれっ、原田」 「ほんとだ。久しぶりだね原田くん」  近づいてくる倫之に気づいてか、振り返った何人かがそんなふうに挨拶してきた。女性の中には、あからさまに目を光らせた人もいる気がする。スーツの仕立ての良さに気づいたのかもしれない。 「久しぶり。皆、元気そうで良かった」 「そう言うお前もな。聞いたぞ、もうすぐ課長になるかもしれないって?」 「えっそうなの? いつ」 「来年かな。営業担当の常務が今年度で退職するらしいから、順繰りに上がってくことになると思う」 「だとしたって、凄いじゃない」 「そうだよ。うちのクラスじゃ一番出世が早いんじゃないか」 「後で詳しく話、聞かせてよ。……ところで後ろの人、誰?」  前のめりな勢いで倫之に話しかけていた女性が、いま気づきましたというふうに、私を見て言った。  その顔には見覚えがある。クラスは違ったけど、校内の顔のいい男子は残らずチェックしていたと噂高かった人──確か、泉谷(いずたに)さん。 「泉谷さん、こんばんは」 「は? あんた誰?」 「…………え、もしかして柴崎さん? 三組の」  不審顔で首をひねった泉谷さんに代わり、横にいた別の女性(たぶん一年の時に同級生だった廣井(ひろい)さん)が、私をじっと見て疑わしそうに呼びかけた。 「うん、そう」  短く答えると、周囲の全員に「えっ」という表情で注目される。 「うっそ、柴崎? あの、地味だった原田の幼なじみ?」
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