幼馴染みとの契約交際が溺愛必須に変更されました。

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 男性のひとり(最初に倫之に話しかけてきた人)が目を丸くして言ったことは、その場の人たちの共通認識だったと思う。高校時代の私は本当に地味だったから。  行きたい大学があったから、そこを目指して勉強漬けの毎日。年齢らしいオシャレはしなかったし友達も多くはなかった。けれど「原田倫之の幼なじみ」という事実で、なぜだか必要以上に名前と顔は知られていたのだ。 「地味は余計だけど、そうだよ。柴崎由梨」  倫之が確定発言をしたのと、その倫之が私を連れているという状況に、何を想像されているのかは、彼ら彼女らの目を見れば想像はつく。いよいよだ、と思って心の中で身構えた。 「三組の人たちはあっちのテーブルにいるよ。なんでこっちに」  こっちにいるの、と廣井さんが言い終わる前に「実は」と倫之が口を開いた。 「皆に報告しとこうと思って。俺たち付き合うことになったから」 「ええっ」  さっきとは違う、実際の声での反応で、場がどよめいた。  その声に、さらに外側にいる人たちまでが振り返り、何事かと注目してくる。  輪の中心にいるのが倫之だと気づいてか、ひそひそと何かを話し合う人たちも中にはいた。  視線の数と、好奇心で満たされた空気に、思わず縮こまる。それとほぼ同時に、倫之の手が私の肩に添えられた。  反射的にドキッとしたが、これも芝居の一環に違いない。  背筋を伸ばして顔を上げ、ぎこちないと思いながらもなんとか笑顔を作る。 「じ、実はそうなんです。こないだ久しぶりに会ったら、お互いひとりだし付き合ってみようかって話になって」  嘘が苦手な性格が災いして、つい、ほぼ本当のなりゆきを言ってしまう。まずかったかな、と思っていると「違うだろ」と肩に置かれた手に力がこもって引き寄せられた。 「俺がいい男だって、やっと気づいてくれたんだろ」 「──ちょっと、言ってもいないこと言ったふうに語らないでくれる?」 「照れるなって」 「照れてないっ」  肩を撫でられながらそんなことを言われて、思わず人前で叫んでしまった。  そんな様子に、周囲の人はぽかんとしている。 「……な、仲良いね」 「ほんと。びっくりした」 「けど柴崎さん綺麗になったし、けっこうお似合いじゃないか?」  中の一人の発言に、うんうん、と何人かがうなずいている。自分の今の格好と、それにそぐわなかった振る舞いを今さら思い返して、顔に血が上った。
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