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朝、いつもと同じように家を出たら、あたり一面が霧に包まれていた。こんなことがあるものかと少しびっくりした。これが霧というものかとビクビクしたが、学校に行かないという選択肢はなかった。折角、一時間目の国語の授業の作文を書き上げたっていうのに。 とりあえず学校へ向かって進む。家を出たからまずはまっすぐ。結構行ける。自分でもビックリする。方向感覚って、景色が見えなくてもあるものなんだと実感する。あとは距離感なのかな。真っ白な霧が続く中をとにかく歩く。雲の中を歩くのもきっとこんな感じだろうと想像してみたりする。そろそろこの辺で突き当たりの宮本さんの家の近くとは思うんだけど、門は見えない。でも、左へ曲がるとまたちゃんと道が続いているから歩いて行ける。この辺はそもそも学校が近い住宅街で、朝っぱらから車に乗る人がいないし、自動車の音は聞こえてこないから不安はない。梶田さんとこのロックはいつもと同じように吠えている。ロックにはボクが見えてるのかな?ああ、そっか、犬だから、見えなくてもニオイで分かるんだろう。 少し前の方からかな、誰かと誰かが「おはよう」って言い合ってる。ああ、あの声はきっと麻里と美紀か。二人は毎朝あの坂を降りきった電柱のところで待ち合わせて一緒に行ってるんだよな。大丈夫。あの二人と同じ時間なら遅刻はしない。 そして村木パンのいい匂いが漂ってきた。これもいつもと同じ。すると、あのメガネの新聞配達のおにいさん、この辺り一帯の配達を終えていまくらいの時間には自転車で配達所に戻ってくんだよね。いくらインターネットが普及してるっていっても、新聞は新聞で必要だってうちの父さんも言ってるもんね。ボクらも宿題で読まされることもあるし、きっと受験のときとか面接で聞かれたりするから、日頃から新聞は読まなくちゃならない。あのお兄さん、今日もきっと自転車だろうからぶつからないように気をつけなくっちゃ。 それにしたってすごい霧だな。これって異常現象なんだろうか?ボクは生まれてやっと十数年生きているくらいだけど、こんなものすごい霧に町が包まれたことなんてなかったよね。そう思う。大丈夫なんだろうか?今日一日、こんな霧に包まれたまま過ごすんだろうか?明日も明後日も、永遠に霧に包まれたままなんてことにはならないんだろうか?この町だけ?日本中?いや、世界全体が霧に包まれていて、この先もうずっと霧が晴れないなんてこと、ないだろうか? そんなことを考えていたら学校に着いた。家を出たときほど方向や距離を考えなくても、なにごともなく無事に学校に到着した。あんまりにも簡単に到着したことに、ちょっと拍子抜けしたくらいだ。だからボクは憤慨した。ダメだ。なにごともこんなに簡単にできてしまっては!安心なんかしちゃいけないんだ!ボクは安易な道を選んで、簡単にことを成してしまったのではないか!もっと冒険心をもって、勇気を振り絞ってなにごとにも果敢に挑まなければならない!貪欲に、意地汚く、少しくらいの危険を省みることなく、勇者らしく行こうじゃないか!ヨシ!帰り道はいつもと違う方向へ方向へと進んで行こう!なんて教室で大声で話していたら、先生にこっぴどく叱られてしまった。 ふん。霧なんて大嫌いだ。
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