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彼は、うーん、とひとつ唸った。
「なんだっけ、これ、見たことあるカタチな気がするにゃけど」
と、刻印された花の影を撫でる。家紋のようなそれが意味するところは、未だ解らない。だが、持ち主の意図なら想像がついた。楓は吸い殻の火を丹念に消した。
彼はまだ首を捻っている。
「どこやったかなあ、すっごく最近見たような……でも、なんで俺宛なん? 楓やのうて?」
「人伝だから推測だが、日向先生のライターだろう。だからお前宛なんだ」
「えっ、あの先生、タバコ吸うてはったん? 匂いとかせえへんかったけど」
「いいや、喫煙者だったのは奥さんだな」
「はっ?」
今度こそ、目を見張った彼を見返す。
黒目を覗き込むと、僅かに揺れた。これは照れや恥じらいではなく、どうやら不安であるようだ。冬の間から見え隠れするそれも、今のうちにまとめて決着を付けたいところだ。
楓は腹に力を入れる。
「その話は、まあ待て。とりあえず続きが先だ」
「つづき?」
まだぜんぜん、足りてない。
そう告げる前に、楓は彼の唇を塞いだ。
まあるい月はいつの間にか雲に隠れた。
さわさわさわと、風が庭を渡って消えていった。
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