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自宅兼カフェのドアを開けると、今日もカウンターの中から兄の貴兄こと花堂貴見が笑顔で迎えてくれる。相変わらず涼しげな目元に口角の上がったきれいな口もと。
「お帰り、琴理。おやつに新作のバスクチーズケーキがあるから手を洗っておいで」
貴兄の綺麗に整った顔を見たら、私はなんだか無性に反抗したくなった。
「いらない。太るから」
そう言って、貴兄の横を通り抜けて2階の自室に行こうとした。
途端に貴兄が大げさに動きを止める。
「琴理、ついに反抗期か……!今まで目立って反抗したこともなかった琴理が、ついに……。辛いが仕方ないね。これは成長することの痛みなんだね。きっとどの親も通る道だ……」
ハッキリ言ってウザい。
でも心なしか貴兄の目がうるっとしているのを見て、もうなんか反抗するのもバカバカしいっていうか……。
「……わかったよ。食べればいいんでしょ?バスクチーズケーキ!」
*
にこにこと見守る貴兄。
かくして今日も私は反抗することなく、「カフェ・一善」のカウンターでおやつのバスクチーズケーキを食べているのだった。
〈完〉
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